板前FP雑記帳

働く人、生活者のためのファイナンシャル・ファイナンシャル

インフレリスクと年金保険

円安・インフレ

 

新聞やテレビのニュースを見ていて、「円安」「インフレ」という文字を目にしない日はないのではと思います。

2024年12月25日ドル対円の中心相場は157.15円でした。2021年の平均レートが109.89円ですから、ここ数年での円相場は大幅に下落したことになります。

 

日本は食料や原材料費、燃料など多くのモノを輸入に頼っているので円安は私達の生活に大きな影響をもたらします。

輸入するモノの価格が同じだったとしても、円の価値が下がってしまえば購入するのにより多くのお金が必要になるからです。

そうなれば輸入された原材料などを必要とする企業の収益は圧迫され、物価の上昇につながります。

 

また、よく知られているように為替相場は金利の影響を受けます。

金利の低い通貨よりも、金利の高い通貨で資産を運用したほうが当然より多くの利益を見込めます。なので投資資産は金利の低い通貨から金利の高い通貨へと流れることが多いのです。

インフレ抑制のため2022年からFRBが利上げを実施してきた米ドルと長年の金融緩和・ゼロ金利政策を続けてきた円との金利差が、ここ数年の円安の要因の一つだと言われています。

 

物価高と生活苦

 

日本では2021年の後半から物価が上がり始めました。

マーガリン・パスタ・小麦粉・食用油など私達の生活に身近な品目が軒並み値上げされ、「値上げの秋」とニュースで報じられていたのを覚えている方も多いのではと思います。

 

世界的なコロナ禍によるサプライチェーンの混乱と、コロナ後の景気の回復による需要の増加によって原材料や物流の価格が上がったことがきっかけと言われています。

その中で起きたのがロシアによるウクライナ侵攻です。ともに小麦などの穀物の輸出大国であったロシアとウクライナ、戦争によって生産と輸出が減少したことでその価格は大きな影響を受けます。

また世界有数の産油国でもあるロシア、制裁によってロシアからの石油の輸入の禁止が議論され始めると供給不安から原油価格は高騰しました。

 

原材料の価格上昇、つまりコストの上昇によるインフレをコストプッシュインフレと呼び、こうしたインフレは悪いインフレだと言われています。

 

日本では長年デフレの状態が続き、非正規雇用の増加など人件費が安く抑えられてきました。

給料が上がらないまま身の回りの品物の価格が上昇して家計を圧迫し、国民生活を苦しめているというわけです。

 

インフレリスクと老後資金

 

インフレは資産運用にも大きな影響を与えます。

 

モノやサービスの価格が上がれば、相対的にお金の価値は下がっていきます。

元本保証で安全資産である預貯金も、たとえ金額は変わらなかったとしてもインフレの進行によってその価値が下がってしまうことになるのです。

 

節税効果が注目を浴びる新NISAiDeCoですが、円安とインフレの進行が、自分たちのような庶民に対しても、将来への備えとしての投資・資産運用を後押ししていると言えます。

 

iDeCo 個人型確定拠出年金 - 板前FP雑記帳

 

それでは老後資金づくりのための私的年金の1つである個人年金保険についてはどうでしょうか?

インフレの影響を受けやすいと言われる個人年金保険、そもそもどういう保険商品なのかをまず確認していきたいと思います。

 

個人年金保険の分類

 

個人年金保険は、公的年金を補う老後の生活資金を確保する手段の1つとされ、契約時に定めた年齢から年金を受け取れる保険商品です。

積み立てた年金保険料、積立配当金、年金受取開始後の配当金が、年金の原資となります。

 

個人年金保険には様々な商品があり、それぞれタイプによって分類することができます。

 

  1. 受取方法(年金タイプ)による分類・・・定額型、逓増型(年金額が増加していく)、前厚型(最初の一定期間に受け取れる年金が多い)
  2. 受取期間による分類・・・確定年金(生死に関係なく定めた期間)、有期年金(定めた期間だが死亡するとそれ以後は受け取れない)、終身年金(生存している限り受け取れる)、夫婦年金(夫婦どちらかが生存している限り)
  3. 運用方法による分類・・・定額年金(契約時に年金額が確定)、変額年金(運用実績により年金額が変動)

 

定額個人年金保険

 

定額個人年金保険は契約時に定めた予定利率で運用されるため、将来受け取ることのできる年金が確定もしくは最低保証されています。

元本割れリスクの少ない安心感のある保険商品といえます。

そのため、資金計画が立てやすいというメリットがあります。

  

定年後の生活プランに合わせて、必要な時期に合わせて必要な年金タイプの商品を選ぶことができるのです。

  • 確定年金、有期年金・・・定年から年金受け取りまでのつなぎ
  • 終身年金・・・人生100年時代の長生きリスクに備える

 

半面インフレの影響を受けやすく、お金の価値が下がってしまうと資産価値が目減りしてしまう恐れもあるのです。

円安とインフレが進む現在の状況では、将来のための資産運用として定額個人年金保険を積極的に取り入れる理由は見つけにくいと言えるかもしれません。

 

なお以下の条件(個人年金保険料税制適格特約)をすべて満たすと、払い込んだ保険料は個人年金保険料控除の対象となり所得税や住民税の負担が軽減されます。

  1. 年金受取人が契約者またはその配偶者のいずれか
  2. 年金受取人と被保険者が同一である
  3. 保険料払込期間が10年以上
  4. 年金受取開始日の年金受取人の年齢が60歳以上で、受取期間が10年以上

 

変額個人年金保険

 

定額個人年金保険が、元本と一定利率が保証されている保険商品を運用する一般勘定で運用されているのに対し、変額個人年金保険特別勘定で運用されています。

 

特別勘定とは、株式や債券などの運用実績によって保険金額や給付金が変動する保険商品を運用する勘定のことです。

運用によるリスク・リターンはすべて契約者に帰属します。

定額個人年金保険の比べてインフレリスクに対応できる保険商品と言うことができます。

 

ただし変額個人年金保険は100万円程度からの保険料を一時払いで払い込む商品が主流で、所得控除は死亡保険等と同じ一般生命保険控除の対象となります。

保険料が控除の上限額を超えてしまうと、節税効果は少なくなってしまいます。

 

将来の年金については一時払保険料相当額を最低保する商品もあり(解約返戻金には最低保証はなし)、また万一年金受取前に死亡した場合には多くの商品で払込保険料相当額の死亡給付金を最低保証しています。

 

定額個人年金保険に比べるとリスクはあるし、節税効果ならNiDeCoのほうが大きいと言えるかもしれません。

それでは、老後のための資産運用として変額個人年金保険を選ぶメリットは全くないのかと言われれば、そうでもありません。

 

相続対策としての変額個人年金保険

 

変額個人年金保険には、死亡給付金など生命保険としての一面があります。

相続税法においては、死亡給付金はその受取人が法定相続人の場合500万円×法定相続人の数という非課税枠が適用されます。

 

また生命保険の死亡給付金は相続財産ではなく受取人の固有資産であり、遺産分割や遺留分の対象外であるということも相続において重要なポイントだと言えます。

これはつまり、事業を承継する人などの財産を渡したいと考えている人に確実に渡すことができるからです。

 

さらに言えば、預金・有価証券・不動産などの相続財産は相続が確定して自分の財産になってからでないと換金できません。

しかし死亡給付金は相続開始と同時に現金で受け取ることができます。

 

このように、老後の暮らしのためだけでなく相続対策として資産運用を考える場合、個人年金にもメリットはあると言えます。

 

将来のリタイアメントプラン、そしてそれに対する自分の現状をきちんと把握して、必要な対策は何かを日頃から考えていくことが大切です。

そのためにFPの知識がお役に立てればと思い、これからも勉強を続けていきます。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

高額療養費から必要な医療保障の準備を考える

ケガや病気への不安

 

健康保険の加入者は通常、医療費の1割〜3割を自身の年齢や収入に応じて負担しています。

ですが治療にかかる期間が長くなってしまったり、入院による治療が必要になってしまった場合には、医療費がかさみ高額になってしまうことがあります。

 

日本では、高額になった医療費の家計負担が重くならないよう医療機関や薬局で支払った医療費が自己負担の限度額を超えた場合、その超えた分の金額が支給される高額療養費制度があります。

 

日本保険文化センターの2022(令和4)年度版「生活保障に関する調査」によると、ケガや病気に対する不安を感じている人は88.5%にのぼります。

 

さらにケガや病気に対する不安については

  • 長期の入院により医療費がかさむ・・・50.1%
  • 公的医療だけでは不十分・・・41.4%
  • 家族への肉体的・精神的負担・・・51.8%

となっています。

 

長期の治療や入院による高額な医療費と家族へ負担をかけることへの不安が、いまの社会を生きる人たちにとって重くのしかかっていると言えます。

 

そうした不安に対処していくためには、まずは公的な医療制度と社会保障を理解したうえで、自分の現在の生活や将来のために必要な保障内容を把握して準備することに尽きると思います。

 

少しでもこのブログがお役に立てればと思います。

 

高額療養費制度

 

高額療養費制度とは、1ヶ月にかかった医療費が高額になり自己負担の限度額を超えた場合、超えた分の金額が払い戻しされる制度です。

入院や治療が月をまたいだ場合には月ごとに自己負担額を計算します。

例えば入院した期間が1月20日〜2月7日だった場合は、1月20〜31日までの分と2月1日〜7日までの分の自己負担額をそれぞれ計算することになります。

 

また、高額療養費制度の対象となる自己負担額は健康保険の被保険者とその扶養家族との分を合算(世帯合算)することができます。

ただし、合算の対象となるのは医療機関ごとにそれぞれ算出された医療費が2万1000円以上のものとなります。またこの場合、同じ病院で会ったとしても医療入院と医科外来、さらに歯科と歯科外来とはそれぞれ分けて自己負担額を計算します。

 

高額療養費制度の自己負担限度額

 

自己負担額から、収入や年齢によって設定された自己負担限度額を差し引いた額が高額療養費として支給されます。

それでは年収ごとの自己負担限度額を見ていきたいと思います。

 

  • 住民税不課税···35,400円
  • 〜約370万円···57,600円
  • 約370〜770万円···80,100円+(医療費−267,000円)×1%
  • 約770〜1,160万円···167,400円+(医療費−558,000円)×1%
  • 約1,160万円〜···252,600円+(医療費−842,000円)×1%

となります。

 

続いて70歳以上の年収ごとの自己負担限度額は

  • Ⅰ住民税非課税世帯(年金収入80万円以下)···8,000円(個人)、15,000円(世帯ごと)
  • Ⅱ住民税非課税世帯···8,000円(個人)、24,600円(世帯ごと)
  • 約156万〜370万円···18,000円(年間上限144,000円)

年収約370万円〜は現役世代並みの収入があるとみなされ、自己負担限度額は69歳以下と同じになります。

 

(例)高額療養費の計算

 

自己負担限度

「健康保険の加入者で35歳・年収約500万円、医療費100万円」だった場合には

80,100+(100,000-267,000)× 1%=87,430

となって、その月の自己負担限度額は87,430円です。

 

②高額療養費

健康保険加入者が窓口で払う医療費は3割負担ですので30万、そこから自己負担限度額を差し引いて

300,000−87,430=212,570

となり、約21万超の金額が高額療養費として払い戻しされます。

 

健康保険の給付対象外である先進医療などにかかる費用は、高額療養費の対象にならない点に注意が必要です。

 

入院にかかる様々な費用

 

入院には治療費・入院基本料といった公的な医療保険が適用される費用と、食事代・差額ベット代など公的な医療保険が適用されない費用がかかります。

 

加えて入院中に必要な着替えやその他の日用品や消耗品、またお見舞いや付き添いなどの交通費も必要になります。

 

〇入院時食事代(1食あたり)

  • 一般···460円
  • 住民税非課税者···210円(90日以内)、160円(90日超)
  • 住民税非課税で所得が一定基準に満たない70歳以上の高齢者···100円

 

〇差額ベット代(1日あたり)

差額ベット代は病院が自由に設定することができるため、病院や病室の種類によって異なります。ここでは平均的な金額を見ていきます。

  • 1人部屋···8,018円
  • 2人部屋···3,044円
  • 3人部屋···2,812円
  • 4人部屋···2,562円

(令和元年7月1日現在:厚生労働省保険局医療課調べによる)

 

入院にかかる自己負担費用の平均

それではここで日本保険文化センターの2022(令和4)年度版「生活保障に関する調査」より、入院時の自己負担費用(治療費に入院基本料、食事代・差額ベット代・家族などのお見舞いを含めた交通費・着替えや日用品他)を見ていきたいと思います。

 

〇入院時の自己負担費用の平均

  • 5日未満···8万7,000円
  • 5〜7日···15万2,000円
  • 8〜14日···16万4,000円
  • 15〜30日···28万4,000円
  • 31〜60日···30万9,000円
  • 61日以上···75万9,000円

となります。

 

高額療養費をふまえて必要な医療保険を考える

 

病気や治療方法、また病院や病室などの種類によって入院にかかる費用は異なりますし、どこまでのリスクに備えておくべきなのか・備えるための医療保険などの費用をいくらまで負担できるのか、その人の年齢や生活、そして考え方によっても変わってくることでしょう。

 

同じく日本保険文化センターの2022(令和4)年度版「生活保障に関する調査(医療保障に対する私的準備状況)」によると、

  • 公的な医療保険制度以外で経済的な準備をしていると答えた人の割合は82.7%
  • 私的な準備手段として生命保険が68.8%、続いて預貯金が44.5%
  • 疾病入院給付金の支払われる生命保険に加入している人の、平均的な疾病入院給付金日額は全体で8,700円(男性9,600円・女性8,100円)

 

まずは自分の現在の生活から、高額療養費など公的な医療制度をふまえた上で、必要な入院給付金などを割り出していくことが、現実的でムダのない医療保険選びにつながるのではと思います。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

「ギルド」に「無尽」、そして「ハレー彗星」と生命保険の始まり

リスクマネジメントとしての生命保険

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理して被害や損失の回避または低減を図るプロセスのことを言います。

ですが変化が激しく予測の難しい現代社会では、個人においてもリスクマネジメントの必要性があると感じている方も多いのではないでしょうか?

 

そして私たちの生活の中で最も身近なリスクマネジメントが、生命保険という制度だと思います。

 

リスクマネジメントはその手法において、「損失の発生頻度とその大きさを削減」するためのリスクコントロールと「損失を補てんするための金銭的な手当て」をするためのリスクファイナンシングとに大別されます。

 

さらにリスクファイナンシングでは、リスクによる損失を自ら負担する保有と第三者に負担させる移転とに大きく分かれます。

身近な例では、将来に備えての積立貯蓄は「保有」。そして「移転」の最も代表的な手法にあたるのが、生命保険です。

 

「ギルド」

 

中世ヨーロッパでは、商工業に携わる人々がギルドという同業者組合を作り、組合員の冠婚葬祭の費用などを分担しあっていました。

商人たちが商業利益と相互扶助のために結成したのが商人ギルドであり、やがて商人たちが都市の政治を掌握し独占するようになる中、手工業者たちが自分たちの利益や権利を守るために結成したのが同職ギルドです。

 

そのギルドが、生命保険の起源であるとする説があります。

 

その後歴史は進み17世紀の終わり頃、英国のセントポール寺院において香典前払い組合が結成されました。

牧師たちが組合を作って毎月一定の金額を払い込み、組合員の死亡に備えるという制度です。

 

ですが、この香典前払い組合はわずか10年ほどで立ち行かなくなってしまいます。

 

「掛け金を払い込んだ期間にかかわらず受け取る金額を同額とする」制度であったので、加入した年齢や加入期間によってかなりの不公平が生じます。

その結果、若い牧師たちの中で離脱者が続出してしまったのです。

 

ハレー彗星と生命保険

 

「ハレー彗星」は、天体観測に興味がない方でもご存知の方も多いと思います。

最初の観測記録は紀元前まで遡るとされ、それが同じ彗星の回帰であることを発見したのが英国の天文学者エドモンド・ハレーです。

 

そのハレー氏が作った生命表が、近代的な生命保険の礎となっているのです。

 

ルネッサンス以降、高名な学者たちによって数多くの法則や定理が発見されましたが、その一つに大数の法則というものがあります。

一つ一つは偶発的に見えるできごとも、多くの事例を集めて統計をとると一定の法則が見られる、というものです。

 

例えば、サイコロを6回振るとします。その場合サイコロの「1」の目が出る確率は、6分の1とは限りません。

ですが、サイコロを振る回数(サンプル数)を増やせば増やしていくほど「1」の目が出る確率は6分の1に近づいていきます。

 

ハレー氏はこの大数の法則が人の寿命にも当てはまるとして、特定の年齢層や性別における死亡率や平均余命を示した生命表を作成したのです。

 

その後、英国の数学者ジェームス・ドドソンによって「生命表による死亡率を根拠として、加入時の年齢によって保険料が決まり、払込期間を通して保険料が一定額になる仕組み(平準保険料方式)」が考え出されました。

 

このようにして近代的生命保険制度は確立され、現在に至ります。

 

日本における生命保険

 

日本では自然発生的に相互扶助の仕組みが各地に存在していましたが、鎌倉時代になると「頼母子(たのもし)」や「無尽(むじん)」といった制度が歴史的文献の中から確認されるようになります。

 

金銭の融通を目的とする民間互助組織。一定の期日に構成員が掛け金を出し、くじや入札で決めた当選者に一定の金額を給付し、全構成員に行き渡ったとき解散する。鎌倉時代に始まり、江戸時代に流行。頼母子。無尽講。(デジタル大辞泉より)

 

そしてわが国に最初に保険制度を紹介したのは、1867年(慶應3年)に福沢諭吉が著した「西洋旅案内」だとされています。

その時代は「保険」という言葉そのものがなく、福沢諭吉は「災害請合」という訳語を作り出して生命保険・損害保険・海上保険の仕組みを紹介しています。

 

ちなみに福沢諭吉はこの「西洋旅案内」の舞台となったアメリカ行でたくさんの洋書を買って帰国したのですが、道中その荷物を海上保険にかけたという事実があるそうです。

 

保険の歴史は助け合いの歴史

 

人が社会を形成し生きてく上で発生した相互扶助の仕組みが、近現代の生命保険制度へと発展していったわけですね。

こうして見てみると、社会や生活は変わっていく中でも、保険の歴史は人々がお互いのリスクを負担し合う助け合いの歴史なんだということが良く分かります。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

遺族年金について(2)遺族厚生年金

遺族年金の「2階」部分、遺族厚生年金

 

このブログでも何度か言及していますが、「日本の年金制度は2階建て」と言われます。すべての対象者が加入する国民年金が1階部分、そして会社員や公務員などが加入する厚生年金が2階部分というわけです。

 

遺族年金においては前回のブログで解説した遺族基礎年金が、その1階部分にあたります。

そしてその2階部分が、今回解説する遺族厚生年金です。

 

遺族年金について(1)遺族基礎年金 - 板前FP雑記帳

 

遺族厚生年金の支給対象

 

厚生年金に加入していた人が死亡したときに、その人に生計を維持されていた遺族(遺族基礎年金と同様に年収850万円未満の年収要件あり)に支給されるのが遺族厚生年金です。

遺族厚生年金では、遺族基礎年金よりも色い範囲の遺族が支給対象となります。次の遺族のうち、最も優先順位の高い遺族が給付を受けることができます。

  1. 配偶者、または子
  2. 父母
  3. 祖父母

 

支給対象となる遺族にはそれぞれ年齢などの要件があります。

 

・「子」「孫」

18歳になる年度末の3月31日までの人、または障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の人。

・「30歳未満の子のない妻」

受給できるのは5年間のみ。

・「夫」「父母」「祖父母」

厚生年金の加入者が死亡した時点で55歳以上であること。受給開始は60歳から。

(55歳未満の夫が妻の扶養に入っていて子供がいる場合、子供に支給される。)

 

遺族厚生年金の受給要件

 

それでは続いて、亡くなった人に関する要件について見ていきたいと思います。

 

「短期要件」

  1. 厚生年金の被保険者の死亡
  2. 厚生年金の被保険者期間中に初診日のあった病気や怪我が原因で、初診日から5年以内に死亡
  3. 障害等級1級・2級の障害厚生年金の被保険者の死亡

「長期要件」

 4. 厚生年金の受給権者または厚生年金の受給資格期間が25年以上の人の死亡   

 

遺族厚生年金の受給要件では、本来必要な25年以上の加入期間がなくても受給権が発生する短期要件と、25年以上の加入期間を満たすものを長期要件とがあります。

この短期要件のうち、1と2については、亡くなった日の前日までに保険料を納めた期間(保険料免除期間を含む)が被保険者期間の3分の2以上であることという納付要件があります。

(※2026年3月31日までは、死亡した前々月の直近1年間に保険料の未納期間がなければ要件を満たすとみなされる特例があります。)

 

遺族厚生年金の年金額

 

遺族厚生年金の額は、老齢厚生年金の報酬比例部分(2階部分)の4分の3となります。遺族基礎年金の額は子どもの数に応じて一律ですが、遺族厚生年金では少し複雑な計算で受給額が算出され、また加入者の収入によって年金額が変わります。

 

遺族厚生年金額の計算

 

  1. A=平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの被保険者期間
  2. B=平均標準報酬月額×5.481/1000×2003年4月以後の被保険者期間
  3. (A+B)×3/4

 

短期要件による遺族厚生年金では、被保険者期間が300月に満たない場合は300月とみなして計算します。

 

それでは過去のFP試験の問題から、例を出して計算してみたいと思います。

 

例)

  • 1977年1月12年まれ
  • 2023年5月28日死亡(46歳)
  • 2003年3月以前の被保険者期間=48月
  • 〃の平均標準報酬額=25万円
  • 2003年4月以後の被保険者期間=241月
  • 〃の平均標準報酬額=38万円

 

A=25万円×7.125/1000×48月 = 85500円

B=38万円×5.481/1000×241月 = 501949.98円

 

A+B = 587449.98円(報酬比例部分)となります。

 

ここで300月のみなし計算では、まず報酬比例部分の額を実際の被保険者期間(48+241=289)で割って1ヶ月当たりの金額を出し、その数字に300をかけて300月加入していた場合の金額を算出します。

 

587449.98÷289×300 = 609809.6676

 

となり、その4分の3ですので

 

609809.6676×3/4 = 457357.2505

 

円未満を四捨五入して45万7357円が、遺族厚生年金の額となります。

 

少しわかりにくい計算式ですので、自分で遺族厚生年金の額を算出するのは手間だと思います。

生命保険各社のサイトで年齢や家族構成ごとの支給額のシュミレーションをみることができますし、年金事務所に問い合わせると、その点は親切に教えてくれます。

 

日本年金機構

「全国の相談・手続き窓口」

https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/

 

中高齢寡婦加算

 

遺族厚生年金では、夫が亡くなった時に45歳以上65歳未満で子のない妻には、年額61万2000円の中高齢寡婦加算が加算されて支給されます。

 

65歳以上で老齢厚生年金の受給権者

 

それでは65歳以上で老齢厚生年金の受給権者が遺族厚生年金を受ける場合はどうでしょうか。

 

2007年4月以降、遺族厚生年金の額が自らの老齢厚生年金の額よりも多い場合には、自らの老齢厚生年金が全額支給され遺族厚生年金については自らの老齢厚生年金に相当する額が支給停止となります。

 

というわけですので、自分の老齢厚生年金の額の方が多い場合は遺族厚生年金は全額支給停止となります。

 

遺族年金を把握して、必要な補償とライフプランニングを

 

ここまで遺族年金について解説してきました。

遺族年金には子ども・子どもがいる配偶者が受け取ることのできる遺族基礎年金(1階部分)と、子どもがいなくても受け取ることのできる遺族厚生年金(2階部分)があります。

 

家族構成・年金への加入期間・収入によって受け取ることのできる年金額が変わります。

まずはおおまかでも良いのでもしもの時の年金額を把握することが、保険などの必要な補償の選択や将来に向けての貯蓄・投資の目標額など、ライフプランニングの参考になるかと思います。

 

このブログが少しでもお役に立てれば幸いです。

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

 

遺族年金について(1)遺族基礎年金

年金は歳をとってからもらうもの?リスクに備えるための年金

年金は歳をとってから受け取るものと考えてしまいがちです。

その考え方自体は間違いではありませんが、それだけではないよというのが今回のブログです。 

 

公的年金には、人生における様々なリスクに備えるための役割があるのです。

 

例えば病気や怪我などで一定の障害状態になった時にされる障害年金、そして本人が死亡したときに残された遺族に支給される遺族年金があります。

 

どんなに気をつけていても、不慮の事故や病といったリスクを負う可能性をゼロにすることはできません。年金にはそうした人生におけるリスクに対して社会全体の支え合いによって備える保険としての機能があるのです。

 

遺族年金は、残された家族の暮らしを支える大切な生活原資です。またもしもに備えて生命保険の加入を検討する際にも、遺族年金への理解があれば必要な補償額を算出するための一助となるのではないでしょうか。

 

遺族年金の仕組みについて解説

 

遺族年金も、他の年金と同様に2階建てになっています。1階部分にあたる国民年金の加入者が死亡したときに遺族に支給される遺族基礎年金、2階部分の厚生年金に加入する会社員や公務員の方が亡くなったときに遺族に支給される遺族厚生年金があります。

 

それぞれ見ていきますが、今回のブログではまず遺族基礎年金について解説していきます。

 

遺族基礎年金の支給対象

 

遺族基礎年金は国民年金に加入していた人が亡くなった時に、その遺族に支給される年金です。

支給対象となるのは亡くなった人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」となります。

 

  • 生計を維持・・・生計を同じくしていたことに加えて、遺族の年収が850万円未満であることという年収要件があります。
  • 子・・・年金上で「子」とは、18歳になった年度の末尾(3月31日)までにある人、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある人のことをいいます。

 

遺族基礎年金の額

遺族基礎年金の受取額は、老齢基礎年金の満額を基本として、そこに子の数に応じた加算額を加えた額となります。

2024年度の老齢基礎年金の満額は年額816,000円です。

 

(1)子のある配偶者が受け取る場合

 

子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取る年金額は、基本年金の81万600円に、子の数による加算額を加えた額となります。

第1子〜第2子が1人につき23万4800円、第3子以降が1人につき7万8300円が加算されます。

 

  1. 子が1人の配偶者・・・年額105万800円(81万6000円+23万4800円)
  2. 子が2人の配偶者・・・年額128万5600円(81万6000円+23万4800円+23万4800円)
  3. 子が3人の配偶者・・・年額136万3900円(81万6000円+23万4800円+23万4800円+7万8300円)

すべての「子」が18歳になりその年度の末尾(3月31日)を迎えると、「子のある配偶者」は遺族基礎年金の受給権がなくなります。

 

(2)子が受給する場合

 

子が遺族基礎年金を受給する場合、基本年金の81万6000円に子の数による加算額を加えた総額を子の数によって等分に割って受給される仕組みになっています。

 

  1. 子が1人・・・年額81万6000円
  2. 子が2人・・・年額105万800円(81万6000円+23万4800円)、一人あたり52万5400円
  3. 子が3人・・・年額112万9100円(81万6000円+23万4800円+7万8300円)、一人あたり37万6366円

例えば長男が18歳になり年度末を迎えた時は、新たに少なくなった「子」の数で年金額が計算されて、残りの「子」に等分に支給されることになります。

 

遺族基礎年金の受給要件

 

遺族基礎年金では、亡くなった人の範囲についても保険料の納付期間について一定の要件があります。確認していきましょう。

 

  1. 国民年金の被保険者(国民年金に加入している人)、あるいは国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人(日本在住)が死亡した場合、保険料納付済期間・免除期間が合わせて加入期間の3分の2以上であること。
  2. 老齢基礎年金の受給権者であった人、受給資格を満たしていた人が死亡した場合、受給資格期間が合わせ25年以上であること。

ただし、2026年3月末までは特例として「65歳未満で、死亡した前々月までの直近1年間で保険料の未納がないこと」という条件に当てはまる場合、保険料の納付に関する要件を満たすものとみなされます。

 

  • 「老齢基礎年金の受給権者」・・・65歳以上で、受給資格期間が10年以上の人。
  • 「受給資格期間」・・・年金を受け取るために必要な加入期間のこと。保険料納付済期間や保険料免除期間などを合算した期間。

 

老齢基礎年金を受け取ることができるのはあくまでも「子のいる配偶者」か「子」ということで、子のない配偶者など対象からこぼれ落ちてしまう人には条件によって寡婦(夫と死別した妻)年金または死亡一時金などが支給されます。

 

今回のブログでは主に老齢基礎年金の仕組みについて解説してきました。

次回は遺族厚生年金の仕組みについて解説する記事を書こうと思います。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

働きながら、年金も―在職老齢年金

歳をとっても働きたい

2022年の「就業構造基本調査」によれば就業者における65歳以上の高齢者の割合は13.5%、働いている人たちのうち実に7人に1人が高齢者ということになります。

さらに高齢者の就業率は25.2%、さらに65歳から69歳の年代では52%にのぼります。

 

歳をとっても働きたいと考える人が増えていることは事実で、その理由は「収入が欲しいから」が全体の45.4%で最も多く、「働くことは体に良い・老化の防止」「仕事が楽しい・これまでの経験や知識を生かしたい」などの理由がつづきます。

 

年金だけでは老後の生活が不安、経済的な安心が欲しい。

そう考える人達が、働きながら年金を受け取ることができる。その制度が在職老齢年金です。

 

ですが在職老齢年金というと「働きながら年金ももらえる」というよりも、「働いていて収入があると年金が減額されてしまう」という負のイメージを持つ方が多いように思います。

そこで今回のブログ記事ではその減額調整についても解説していきたいと思います。

 

在職老齢年金

在職老齢年金とは、会社員として(厚生年金の被保険者として)働きながら、厚生年金を受け取ることができる制度です。自営業者など厚生年金に加入されていない方は対象外となります。

 

65歳から(繰り上げ受給や特別支給の老齢厚生年金を受ける場合は60歳から)70歳に達するまでの間に、厚生年金に加入しながら年金を受け取ることになるので保険料の負担義務があります。

70歳以上では厚生年金の加入資格を失うことになるので保険料の納付義務はありません。

 

在職老齢年金の支給停止

 

在職老齢年金では年金と賞与を含む給与の合計額によって、年金の一部または全額が支給停止(減額)

となることがあります。

基本月額総報酬月額相当額の合計額が50万円を超える場合、支給停止の対象となります。

  • 基本月額=老齢厚生年金の月額。例えば老齢厚生年金の年金額が120万円(年額)の場合、120÷12=10となり基本月額は10万円です。
  • 総報酬月額相当額=毎月の賃金+1年間で受け取った賞与÷12となります。

 

なお、この50万円という減額調整額は令和6年度のもので、毎年度変化するので注意が必要です。

 

少しでも生活を豊かにしようと働いているのに、年金が減額されては元も子もないですよね。どのような計算で年金が減額調整されるのか具体的に見ていきます。

 

①基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円以下の場合

→支給停止額=0円(全額支給)

 

②基本月額と総報酬月額相当額の合計額が50万円を超える場合

→支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額−50万円)÷2

となります。

 

例えば、年金の基本月額が20万円、総報酬月額相当額が35万円の場合

(20万円+35万円-50万円)÷2

となり、毎月2万5千円(年間30万円)が減額されてしまうことになります。

 

自分たちのような普通の給与所得者にとって、月2万5千円はけっこう大きいです。お得なプランがあれば旅行にもいけますし、何回飲みに行けるんだろうとか考えてしまいます(笑)。

 

なお、減額調整はあくまでも老齢厚生年金を対象にしているので老齢基礎年金は全額支給となります。

 

在職定時改定制度

在職老齢年金制度によって厚生年金に加入しながら年金を受け取っていた場合、退職して1ヶ月を経過した時には退職の翌月分から、70歳に達して厚生年金の加入資格を失った時には70歳に達した翌月分から、それまで納めた厚生年金保険料が年金額に反映されることになります。その仕組みを退職改定といいます。

 

加えて2022年度に新たに導入された在職時定時改定制度では、65歳から70歳未満の方が9月1日の時点で厚生年金に加入して働いていた場合には、翌月の10月分から年金額が見直されるようになりました。

年金を受け取りながら働いて納めた保険料が、1年毎に受け取る年金額に反映されるようになったというわけです。

 

これは嬉しいですよね。働く意欲が湧く人も多いのではないでしょうか。

ただし受け取る年金額が増えれば年金の基本月額に反映されるので、既に述べた通り総報酬月額相当額と合わせて一定額を超えると厚生年金の減額調整の対象となってしまうので注意が必要です。

 

厚生年金の適用事業所で65歳を過ぎて働く場合、働きながら年金を受け取るのか、あるいは繰下げ受給をするのかなど選択は様々だとは思いますが、いずれにせよ生活設計をしっかりと作っていく必要があると思います。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

私的年金のポータビリティ

ポータビリティとは

前回のブログ記事でiDeCo個人型確定拠出年金について解説しました。私的年金や企業年金は老後の生活原資となる資金を積み立て、自ら年金の「2階部分・3階部分」を築くための制度です。

 

では企業年金やiDeCoで資産を運用していた人が転職したり退職したりした場合、それまで積み立てた資産はどうなるのでしょうか?

 

その場合、転職先の実施している企業年金・またはiDeCoに資産を持ち運んで移換することができます。

 

この制度を私的年金のポータビリティといいます。

あくまでも老後の資産形成が目的なので、このようにして継続性を担保する必要があるわけです。

それでは今回は私的年金のポータビリティについて解説していきたいと思います。

 

その前に主な企業年金・私的年金について少しおさらいします。

 

 

 

確定給付企業年金とは

 

事業主が従業員の受取る年金額を約束し(確定給付)、その支給額に基づいて掛金が決まります。

掛け金は原則として事業主が負担し、運用の責任も事業主が負います。

「規約型」「基金型」の2種類があります。

 

確定拠出年金とは

 

預貯金(定期)・保険商品・投資信託などの金融商品を対象に資金を拠出し積み立て、その積み立てた資産と金融商品の運用益を将来年金などとして受け取ることができる制度です。

確定拠出年金には「企業型」と「個人型」があります。

 

企業型確定拠出年金(企業型DC)では企業が掛け金を負担し、運用の指図とそのリスクは従業員が負います。運用した金融商品の価格変動によって、元本割れなどのリスクあります。

対して個人型確定拠出年金(iDeCo)は、加入者が自ら資金を拠出して運用します。

 

どちらも共通するのは、加入者が自らの責任で運用し、その運用実績次第で将来給付を受ける年金などの原資となる資産が増減する、ということです。

 

それでは本題に入ります。

私的年金を他の年金制度へと移換するケースについて、1つずつ見ていきます。

 

確定給付企業年金の移換

 

確定給付企業年金→確定給付企業年金

転職先の確定給付企業年金に、移換を受け入れる規約がある場合は可能です。

 

・確定給付企業年金→企業型DC 

退職する確定給付企業年金の担当者(「規約型」の場合は退職する企業の人事部など、「基金型」の場合は企業年金基金)に申し出て、脱退一時金を企業型DCへと移換する手続きを行います。

確定給付企業年金の資格を喪失した日から一年以内

 

・確定給付企業年金→iDeCo

同じく退職する確定給付企業年金の担当者に申し出て、脱退一時金をiDeCoへと移換する手続きをとります。こちらの手続きも一年以内に行う必要があります。移転先の金融機関に「厚生年金基金・確定給付企業年金移換申出書」を提出します。

 

企業型DCの移換

 

・企業型DC→確定給付企業年金

転職先の確定給付企業年金に、企業型DCからの移換を受け入れる旨の規約がある場合にのみ可能です。

 

・企業型DC→企業型DC

企業型DCを実施している企業へと転職する場合、加入資格の対象者はそれまで積み立てた資産を移換することができます。移換手続きは転職先の担当部署を通して行うのが一般的です。

「個人別管理資産移管依頼者」を記入して転職先の担当部署に提出すると、財産を管理する会社同士でその後の手続きが行われます。

それまで積み立てた資産は一旦現金化され転職先の用意する金融商品へと自動配分されるので、転職前に運用していた商品に継続して投資できるとは限りません。

もし配分された金融商品が自分の意思にそぐわない場合には、現在運用している金融商品を売却し他の金融商品へと買い替えることが出来ます。これをスイッチングといいます。

この場合にも、転職先の企業の定めたものの中から新たに運用する金融商品を選ぶことになります。

 

・企業型DC→iDeCo

企業型DCに加入していた人が、企業型DCを実施していない企業へと転職した場合。あるいは退職して自営業者となる・専業主婦(主夫)となる場合は、それまで積み立てた資産をiDeCoへと移換して、継続して資産を運用することができます。

 

企業型DCでは、その職場を退職すると加入資格を失うことになります。加入資格を失った翌月から起算して6ヶ月以内に、転職先の企業型DCやiDeCoへと資産を移換する必要があります。

この手続きを怠った場合、それまで積み立てた資産は自動で現金化されたうえ国民年金基金連合会へと移換されてしまいます(自動移換)

 

自動移換された資産は現金化されているので運用指図することができず、そのままの状態では60歳になっても引き出すことができません。

引き出すためには手数料を払ってiDeCoへと改めて移換する必要がありますが、国民年金基金連合会へと自動移換されていた期間は確定拠出年金の通算加入期間としてカウントされないため、受け取りが60歳よりも遅くなります可能性があります。

 

さらにその国民年金基金連合会へ自動移管された場合の手数料がまず4,348円、自動移換から4ヶ月後に毎月52円、自動移換から改めて企業型DCに移換する場合は1,100円、iDeCoに移換する場合は3,929円となります。

このように本来は負う必要のない手数料や手続きを負担しなければならなくなります。退職した場合の企業型DCの移換手続きは速やかに行うことをお勧めします。

 

iDeCoの資産を他の私的年金へ

 

・iDeCo→確定給付企業年金

iDeCoの加入者であった人が確定給付企業年金を実施する会社に転職した場合、「iDeCoからの移換を受け入れることができる」という旨の規約があれば、iDeCoから確定給付企業年金へと資産を移換することができる場合が有ります。

 

・iDeCo→企業型DC

iDeCoの加入者である人が働いている会社が企業型DCを導入した、あるいは企業型DCを実施している会社へと転職・就職した、そのような場合にはiDeCoから企業型DCへと資産を移換します。

 

まず、それまでiDeCoを管理していた金融機関で加入資格喪失の手続きを行います。その後に転職・就職先の会社でiDeCoの資産を企業型DCへと移換する手続き、という流れになります。

この場合、それまで積み立てた資産は一旦解約されて会社側が用意した金融機関へと配分されることになります。企業型DC→企業型DCの場合と同様です。

 

また会社によっては企業型DCとiDeCoとの併用を認めている場合もあります。その場合は以前の職場で登録していた登録事業所の変更手続きが必要です。

企業型DCとiDeCoの併用には、上限金額や企業型DCのマッチング拠出を利用していないことなど、いくつか条件がありますので確認が必要です。

 

 

少し長くなってしまいましたが、今回は私的年金のポータビリティについて解説させて頂きました。少しでも参考になれば幸いです。

 

ここまてお読みいただきありがとうございました。