円安・インフレ
新聞やテレビのニュースを見ていて、「円安」「インフレ」という文字を目にしない日はないのではと思います。
2024年12月25日ドル対円の中心相場は157.15円でした。2021年の平均レートが109.89円ですから、ここ数年での円相場は大幅に下落したことになります。
日本は食料や原材料費、燃料など多くのモノを輸入に頼っているので円安は私達の生活に大きな影響をもたらします。
輸入するモノの価格が同じだったとしても、円の価値が下がってしまえば購入するのにより多くのお金が必要になるからです。
そうなれば輸入された原材料などを必要とする企業の収益は圧迫され、物価の上昇につながります。
また、よく知られているように為替相場は金利の影響を受けます。
金利の低い通貨よりも、金利の高い通貨で資産を運用したほうが当然より多くの利益を見込めます。なので投資資産は金利の低い通貨から金利の高い通貨へと流れることが多いのです。
インフレ抑制のため2022年からFRBが利上げを実施してきた米ドルと長年の金融緩和・ゼロ金利政策を続けてきた円との金利差が、ここ数年の円安の要因の一つだと言われています。
物価高と生活苦
日本では2021年の後半から物価が上がり始めました。
マーガリン・パスタ・小麦粉・食用油など私達の生活に身近な品目が軒並み値上げされ、「値上げの秋」とニュースで報じられていたのを覚えている方も多いのではと思います。
世界的なコロナ禍によるサプライチェーンの混乱と、コロナ後の景気の回復による需要の増加によって原材料や物流の価格が上がったことがきっかけと言われています。
その中で起きたのがロシアによるウクライナ侵攻です。ともに小麦などの穀物の輸出大国であったロシアとウクライナ、戦争によって生産と輸出が減少したことでその価格は大きな影響を受けます。
また世界有数の産油国でもあるロシア、制裁によってロシアからの石油の輸入の禁止が議論され始めると供給不安から原油価格は高騰しました。
原材料の価格上昇、つまりコストの上昇によるインフレをコストプッシュインフレと呼び、こうしたインフレは悪いインフレだと言われています。
日本では長年デフレの状態が続き、非正規雇用の増加など人件費が安く抑えられてきました。
給料が上がらないまま身の回りの品物の価格が上昇して家計を圧迫し、国民生活を苦しめているというわけです。
インフレリスクと老後資金
インフレは資産運用にも大きな影響を与えます。
モノやサービスの価格が上がれば、相対的にお金の価値は下がっていきます。
元本保証で安全資産である預貯金も、たとえ金額は変わらなかったとしてもインフレの進行によってその価値が下がってしまうことになるのです。
節税効果が注目を浴びる新NISAとiDeCoですが、円安とインフレの進行が、自分たちのような庶民に対しても、将来への備えとしての投資・資産運用を後押ししていると言えます。
それでは老後資金づくりのための私的年金の1つである個人年金保険についてはどうでしょうか?
インフレの影響を受けやすいと言われる個人年金保険、そもそもどういう保険商品なのかをまず確認していきたいと思います。
個人年金保険の分類
個人年金保険は、公的年金を補う老後の生活資金を確保する手段の1つとされ、契約時に定めた年齢から年金を受け取れる保険商品です。
積み立てた年金保険料、積立配当金、年金受取開始後の配当金が、年金の原資となります。
個人年金保険には様々な商品があり、それぞれタイプによって分類することができます。
- 受取方法(年金タイプ)による分類・・・定額型、逓増型(年金額が増加していく)、前厚型(最初の一定期間に受け取れる年金が多い)
- 受取期間による分類・・・確定年金(生死に関係なく定めた期間)、有期年金(定めた期間だが死亡するとそれ以後は受け取れない)、終身年金(生存している限り受け取れる)、夫婦年金(夫婦どちらかが生存している限り)
- 運用方法による分類・・・定額年金(契約時に年金額が確定)、変額年金(運用実績により年金額が変動)
定額個人年金保険
定額個人年金保険は契約時に定めた予定利率で運用されるため、将来受け取ることのできる年金が確定もしくは最低保証されています。
元本割れリスクの少ない安心感のある保険商品といえます。
そのため、資金計画が立てやすいというメリットがあります。
定年後の生活プランに合わせて、必要な時期に合わせて必要な年金タイプの商品を選ぶことができるのです。
- 確定年金、有期年金・・・定年から年金受け取りまでのつなぎ
- 終身年金・・・人生100年時代の長生きリスクに備える
半面インフレの影響を受けやすく、お金の価値が下がってしまうと資産価値が目減りしてしまう恐れもあるのです。
円安とインフレが進む現在の状況では、将来のための資産運用として定額個人年金保険を積極的に取り入れる理由は見つけにくいと言えるかもしれません。
なお以下の条件(個人年金保険料税制適格特約)をすべて満たすと、払い込んだ保険料は個人年金保険料控除の対象となり所得税や住民税の負担が軽減されます。
- 年金受取人が契約者またはその配偶者のいずれか
- 年金受取人と被保険者が同一である
- 保険料払込期間が10年以上
- 年金受取開始日の年金受取人の年齢が60歳以上で、受取期間が10年以上
変額個人年金保険
定額個人年金保険が、元本と一定利率が保証されている保険商品を運用する一般勘定で運用されているのに対し、変額個人年金保険は特別勘定で運用されています。
特別勘定とは、株式や債券などの運用実績によって保険金額や給付金が変動する保険商品を運用する勘定のことです。
運用によるリスク・リターンはすべて契約者に帰属します。
定額個人年金保険の比べてインフレリスクに対応できる保険商品と言うことができます。
ただし変額個人年金保険は100万円程度からの保険料を一時払いで払い込む商品が主流で、所得控除は死亡保険等と同じ一般生命保険控除の対象となります。
保険料が控除の上限額を超えてしまうと、節税効果は少なくなってしまいます。
将来の年金については一時払保険料相当額を最低保する商品もあり(解約返戻金には最低保証はなし)、また万一年金受取前に死亡した場合には多くの商品で払込保険料相当額の死亡給付金を最低保証しています。
定額個人年金保険に比べるとリスクはあるし、節税効果ならNiDeCoのほうが大きいと言えるかもしれません。
それでは、老後のための資産運用として変額個人年金保険を選ぶメリットは全くないのかと言われれば、そうでもありません。
相続対策としての変額個人年金保険
変額個人年金保険には、死亡給付金など生命保険としての一面があります。
相続税法においては、死亡給付金はその受取人が法定相続人の場合500万円×法定相続人の数という非課税枠が適用されます。
また生命保険の死亡給付金は相続財産ではなく受取人の固有資産であり、遺産分割や遺留分の対象外であるということも相続において重要なポイントだと言えます。
これはつまり、事業を承継する人などの財産を渡したいと考えている人に確実に渡すことができるからです。
さらに言えば、預金・有価証券・不動産などの相続財産は相続が確定して自分の財産になってからでないと換金できません。
しかし死亡給付金は相続開始と同時に現金で受け取ることができます。
このように、老後の暮らしのためだけでなく相続対策として資産運用を考える場合、個人年金にもメリットはあると言えます。
将来のリタイアメントプラン、そしてそれに対する自分の現状をきちんと把握して、必要な対策は何かを日頃から考えていくことが大切です。
そのためにFPの知識がお役に立てればと思い、これからも勉強を続けていきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。