ポータビリティとは
前回のブログ記事でiDeCo個人型確定拠出年金について解説しました。私的年金や企業年金は老後の生活原資となる資金を積み立て、自ら年金の「2階部分・3階部分」を築くための制度です。
では企業年金やiDeCoで資産を運用していた人が転職したり退職したりした場合、それまで積み立てた資産はどうなるのでしょうか?
その場合、転職先の実施している企業年金・またはiDeCoに資産を持ち運んで移換することができます。
この制度を私的年金のポータビリティといいます。
あくまでも老後の資産形成が目的なので、このようにして継続性を担保する必要があるわけです。
それでは今回は私的年金のポータビリティについて解説していきたいと思います。
その前に主な企業年金・私的年金について少しおさらいします。
確定給付企業年金とは
事業主が従業員の受取る年金額を約束し(確定給付)、その支給額に基づいて掛金が決まります。
掛け金は原則として事業主が負担し、運用の責任も事業主が負います。
「規約型」「基金型」の2種類があります。
確定拠出年金とは
預貯金(定期)・保険商品・投資信託などの金融商品を対象に資金を拠出し積み立て、その積み立てた資産と金融商品の運用益を将来年金などとして受け取ることができる制度です。
確定拠出年金には「企業型」と「個人型」があります。
企業型確定拠出年金(企業型DC)では企業が掛け金を負担し、運用の指図とそのリスクは従業員が負います。運用した金融商品の価格変動によって、元本割れなどのリスクあります。
対して個人型確定拠出年金(iDeCo)は、加入者が自ら資金を拠出して運用します。
どちらも共通するのは、加入者が自らの責任で運用し、その運用実績次第で将来給付を受ける年金などの原資となる資産が増減する、ということです。
それでは本題に入ります。
私的年金を他の年金制度へと移換するケースについて、1つずつ見ていきます。
確定給付企業年金の移換
・確定給付企業年金→確定給付企業年金
転職先の確定給付企業年金に、移換を受け入れる規約がある場合は可能です。
・確定給付企業年金→企業型DC
退職する確定給付企業年金の担当者(「規約型」の場合は退職する企業の人事部など、「基金型」の場合は企業年金基金)に申し出て、脱退一時金を企業型DCへと移換する手続きを行います。
確定給付企業年金の資格を喪失した日から一年以内。
・確定給付企業年金→iDeCo
同じく退職する確定給付企業年金の担当者に申し出て、脱退一時金をiDeCoへと移換する手続きをとります。こちらの手続きも一年以内に行う必要があります。移転先の金融機関に「厚生年金基金・確定給付企業年金移換申出書」を提出します。
企業型DCの移換
・企業型DC→確定給付企業年金
転職先の確定給付企業年金に、企業型DCからの移換を受け入れる旨の規約がある場合にのみ可能です。
・企業型DC→企業型DC
企業型DCを実施している企業へと転職する場合、加入資格の対象者はそれまで積み立てた資産を移換することができます。移換手続きは転職先の担当部署を通して行うのが一般的です。
「個人別管理資産移管依頼者」を記入して転職先の担当部署に提出すると、財産を管理する会社同士でその後の手続きが行われます。
それまで積み立てた資産は一旦現金化され転職先の用意する金融商品へと自動配分されるので、転職前に運用していた商品に継続して投資できるとは限りません。
もし配分された金融商品が自分の意思にそぐわない場合には、現在運用している金融商品を売却し他の金融商品へと買い替えることが出来ます。これをスイッチングといいます。
この場合にも、転職先の企業の定めたものの中から新たに運用する金融商品を選ぶことになります。
・企業型DC→iDeCo
企業型DCに加入していた人が、企業型DCを実施していない企業へと転職した場合。あるいは退職して自営業者となる・専業主婦(主夫)となる場合は、それまで積み立てた資産をiDeCoへと移換して、継続して資産を運用することができます。
※企業型DCでは、その職場を退職すると加入資格を失うことになります。加入資格を失った翌月から起算して6ヶ月以内に、転職先の企業型DCやiDeCoへと資産を移換する必要があります。
この手続きを怠った場合、それまで積み立てた資産は自動で現金化されたうえ国民年金基金連合会へと移換されてしまいます(自動移換)。
自動移換された資産は現金化されているので運用指図することができず、そのままの状態では60歳になっても引き出すことができません。
引き出すためには手数料を払ってiDeCoへと改めて移換する必要がありますが、国民年金基金連合会へと自動移換されていた期間は確定拠出年金の通算加入期間としてカウントされないため、受け取りが60歳よりも遅くなります可能性があります。
さらにその国民年金基金連合会へ自動移管された場合の手数料がまず4,348円、自動移換から4ヶ月後に毎月52円、自動移換から改めて企業型DCに移換する場合は1,100円、iDeCoに移換する場合は3,929円となります。
このように本来は負う必要のない手数料や手続きを負担しなければならなくなります。退職した場合の企業型DCの移換手続きは速やかに行うことをお勧めします。
iDeCoの資産を他の私的年金へ
・iDeCo→確定給付企業年金
iDeCoの加入者であった人が確定給付企業年金を実施する会社に転職した場合、「iDeCoからの移換を受け入れることができる」という旨の規約があれば、iDeCoから確定給付企業年金へと資産を移換することができる場合が有ります。
・iDeCo→企業型DC
iDeCoの加入者である人が働いている会社が企業型DCを導入した、あるいは企業型DCを実施している会社へと転職・就職した、そのような場合にはiDeCoから企業型DCへと資産を移換します。
まず、それまでiDeCoを管理していた金融機関で加入資格喪失の手続きを行います。その後に転職・就職先の会社でiDeCoの資産を企業型DCへと移換する手続き、という流れになります。
この場合、それまで積み立てた資産は一旦解約されて会社側が用意した金融機関へと配分されることになります。企業型DC→企業型DCの場合と同様です。
また会社によっては企業型DCとiDeCoとの併用を認めている場合もあります。その場合は以前の職場で登録していた登録事業所の変更手続きが必要です。
企業型DCとiDeCoの併用には、上限金額や企業型DCのマッチング拠出を利用していないことなど、いくつか条件がありますので確認が必要です。
少し長くなってしまいましたが、今回は私的年金のポータビリティについて解説させて頂きました。少しでも参考になれば幸いです。
ここまてお読みいただきありがとうございました。