遺族年金の「2階」部分、遺族厚生年金
このブログでも何度か言及していますが、「日本の年金制度は2階建て」と言われます。すべての対象者が加入する国民年金が1階部分、そして会社員や公務員などが加入する厚生年金が2階部分というわけです。
遺族年金においては前回のブログで解説した遺族基礎年金が、その1階部分にあたります。
そしてその2階部分が、今回解説する遺族厚生年金です。
遺族厚生年金の支給対象
厚生年金に加入していた人が死亡したときに、その人に生計を維持されていた遺族(遺族基礎年金と同様に年収850万円未満の年収要件あり)に支給されるのが遺族厚生年金です。
遺族厚生年金では、遺族基礎年金よりも色い範囲の遺族が支給対象となります。次の遺族のうち、最も優先順位の高い遺族が給付を受けることができます。
- 配偶者、または子
- 父母
- 孫
- 祖父母
支給対象となる遺族にはそれぞれ年齢などの要件があります。
・「子」「孫」
18歳になる年度末の3月31日までの人、または障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の人。
・「30歳未満の子のない妻」
受給できるのは5年間のみ。
・「夫」「父母」「祖父母」
厚生年金の加入者が死亡した時点で55歳以上であること。受給開始は60歳から。
(55歳未満の夫が妻の扶養に入っていて子供がいる場合、子供に支給される。)
遺族厚生年金の受給要件
それでは続いて、亡くなった人に関する要件について見ていきたいと思います。
「短期要件」
- 厚生年金の被保険者の死亡
- 厚生年金の被保険者期間中に初診日のあった病気や怪我が原因で、初診日から5年以内に死亡
- 障害等級1級・2級の障害厚生年金の被保険者の死亡
「長期要件」
4. 厚生年金の受給権者または厚生年金の受給資格期間が25年以上の人の死亡
遺族厚生年金の受給要件では、本来必要な25年以上の加入期間がなくても受給権が発生する短期要件と、25年以上の加入期間を満たすものを長期要件とがあります。
この短期要件のうち、1と2については、亡くなった日の前日までに保険料を納めた期間(保険料免除期間を含む)が被保険者期間の3分の2以上であることという納付要件があります。
(※2026年3月31日までは、死亡した前々月の直近1年間に保険料の未納期間がなければ要件を満たすとみなされる特例があります。)
遺族厚生年金の年金額
遺族厚生年金の額は、老齢厚生年金の報酬比例部分(2階部分)の4分の3となります。遺族基礎年金の額は子どもの数に応じて一律ですが、遺族厚生年金では少し複雑な計算で受給額が算出され、また加入者の収入によって年金額が変わります。
遺族厚生年金額の計算
- A=平均標準報酬月額×7.125/1000×2003年3月までの被保険者期間
- B=平均標準報酬月額×5.481/1000×2003年4月以後の被保険者期間
- (A+B)×3/4
短期要件による遺族厚生年金では、被保険者期間が300月に満たない場合は300月とみなして計算します。
それでは過去のFP試験の問題から、例を出して計算してみたいと思います。
例)
- 1977年1月12年まれ
- 2023年5月28日死亡(46歳)
- 2003年3月以前の被保険者期間=48月
- 〃の平均標準報酬額=25万円
- 2003年4月以後の被保険者期間=241月
- 〃の平均標準報酬額=38万円
A=25万円×7.125/1000×48月 = 85500円
B=38万円×5.481/1000×241月 = 501949.98円
A+B = 587449.98円(報酬比例部分)となります。
ここで300月のみなし計算では、まず報酬比例部分の額を実際の被保険者期間(48+241=289)で割って1ヶ月当たりの金額を出し、その数字に300をかけて300月加入していた場合の金額を算出します。
587449.98÷289×300 = 609809.6676
となり、その4分の3ですので
609809.6676×3/4 = 457357.2505
円未満を四捨五入して45万7357円が、遺族厚生年金の額となります。
少しわかりにくい計算式ですので、自分で遺族厚生年金の額を算出するのは手間だと思います。
生命保険各社のサイトで年齢や家族構成ごとの支給額のシュミレーションをみることができますし、年金事務所に問い合わせると、その点は親切に教えてくれます。
日本年金機構
「全国の相談・手続き窓口」
https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/
中高齢寡婦加算
遺族厚生年金では、夫が亡くなった時に45歳以上65歳未満で子のない妻には、年額61万2000円の中高齢寡婦加算が加算されて支給されます。
65歳以上で老齢厚生年金の受給権者
それでは65歳以上で老齢厚生年金の受給権者が遺族厚生年金を受ける場合はどうでしょうか。
2007年4月以降、遺族厚生年金の額が自らの老齢厚生年金の額よりも多い場合には、自らの老齢厚生年金が全額支給され遺族厚生年金については自らの老齢厚生年金に相当する額が支給停止となります。
というわけですので、自分の老齢厚生年金の額の方が多い場合は遺族厚生年金は全額支給停止となります。
遺族年金を把握して、必要な補償とライフプランニングを
ここまで遺族年金について解説してきました。
遺族年金には子ども・子どもがいる配偶者が受け取ることのできる遺族基礎年金(1階部分)と、子どもがいなくても受け取ることのできる遺族厚生年金(2階部分)があります。
家族構成・年金への加入期間・収入によって受け取ることのできる年金額が変わります。
まずはおおまかでも良いのでもしもの時の年金額を把握することが、保険などの必要な補償の選択や将来に向けての貯蓄・投資の目標額など、ライフプランニングの参考になるかと思います。
このブログが少しでもお役に立てれば幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございます。