板前FP雑記帳

働く人、生活者のためのファイナンシャル・ファイナンシャル

「ギルド」に「無尽」、そして「ハレー彗星」と生命保険の始まり

リスクマネジメントとしての生命保険

リスクマネジメントとは、リスクを組織的に管理して被害や損失の回避または低減を図るプロセスのことを言います。

ですが変化が激しく予測の難しい現代社会では、個人においてもリスクマネジメントの必要性があると感じている方も多いのではないでしょうか?

 

そして私たちの生活の中で最も身近なリスクマネジメントが、生命保険という制度だと思います。

 

リスクマネジメントはその手法において、「損失の発生頻度とその大きさを削減」するためのリスクコントロールと「損失を補てんするための金銭的な手当て」をするためのリスクファイナンシングとに大別されます。

 

さらにリスクファイナンシングでは、リスクによる損失を自ら負担する保有と第三者に負担させる移転とに大きく分かれます。

身近な例では、将来に備えての積立貯蓄は「保有」。そして「移転」の最も代表的な手法にあたるのが、生命保険です。

 

「ギルド」

 

中世ヨーロッパでは、商工業に携わる人々がギルドという同業者組合を作り、組合員の冠婚葬祭の費用などを分担しあっていました。

商人たちが商業利益と相互扶助のために結成したのが商人ギルドであり、やがて商人たちが都市の政治を掌握し独占するようになる中、手工業者たちが自分たちの利益や権利を守るために結成したのが同職ギルドです。

 

そのギルドが、生命保険の起源であるとする説があります。

 

その後歴史は進み17世紀の終わり頃、英国のセントポール寺院において香典前払い組合が結成されました。

牧師たちが組合を作って毎月一定の金額を払い込み、組合員の死亡に備えるという制度です。

 

ですが、この香典前払い組合はわずか10年ほどで立ち行かなくなってしまいます。

 

「掛け金を払い込んだ期間にかかわらず受け取る金額を同額とする」制度であったので、加入した年齢や加入期間によってかなりの不公平が生じます。

その結果、若い牧師たちの中で離脱者が続出してしまったのです。

 

ハレー彗星と生命保険

 

「ハレー彗星」は、天体観測に興味がない方でもご存知の方も多いと思います。

最初の観測記録は紀元前まで遡るとされ、それが同じ彗星の回帰であることを発見したのが英国の天文学者エドモンド・ハレーです。

 

そのハレー氏が作った生命表が、近代的な生命保険の礎となっているのです。

 

ルネッサンス以降、高名な学者たちによって数多くの法則や定理が発見されましたが、その一つに大数の法則というものがあります。

一つ一つは偶発的に見えるできごとも、多くの事例を集めて統計をとると一定の法則が見られる、というものです。

 

例えば、サイコロを6回振るとします。その場合サイコロの「1」の目が出る確率は、6分の1とは限りません。

ですが、サイコロを振る回数(サンプル数)を増やせば増やしていくほど「1」の目が出る確率は6分の1に近づいていきます。

 

ハレー氏はこの大数の法則が人の寿命にも当てはまるとして、特定の年齢層や性別における死亡率や平均余命を示した生命表を作成したのです。

 

その後、英国の数学者ジェームス・ドドソンによって「生命表による死亡率を根拠として、加入時の年齢によって保険料が決まり、払込期間を通して保険料が一定額になる仕組み(平準保険料方式)」が考え出されました。

 

このようにして近代的生命保険制度は確立され、現在に至ります。

 

日本における生命保険

 

日本では自然発生的に相互扶助の仕組みが各地に存在していましたが、鎌倉時代になると「頼母子(たのもし)」や「無尽(むじん)」といった制度が歴史的文献の中から確認されるようになります。

 

金銭の融通を目的とする民間互助組織。一定の期日に構成員が掛け金を出し、くじや入札で決めた当選者に一定の金額を給付し、全構成員に行き渡ったとき解散する。鎌倉時代に始まり、江戸時代に流行。頼母子。無尽講。(デジタル大辞泉より)

 

そしてわが国に最初に保険制度を紹介したのは、1867年(慶應3年)に福沢諭吉が著した「西洋旅案内」だとされています。

その時代は「保険」という言葉そのものがなく、福沢諭吉は「災害請合」という訳語を作り出して生命保険・損害保険・海上保険の仕組みを紹介しています。

 

ちなみに福沢諭吉はこの「西洋旅案内」の舞台となったアメリカ行でたくさんの洋書を買って帰国したのですが、道中その荷物を海上保険にかけたという事実があるそうです。

 

保険の歴史は助け合いの歴史

 

人が社会を形成し生きてく上で発生した相互扶助の仕組みが、近現代の生命保険制度へと発展していったわけですね。

こうして見てみると、社会や生活は変わっていく中でも、保険の歴史は人々がお互いのリスクを負担し合う助け合いの歴史なんだということが良く分かります。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。