iDeCoの節税効果を受ける3つのタイミング
前回のブログでiDeCoの制度改正に関して解説しました。
iDeCoは利用者が任意で加入し、自分で設定した掛け金を積み立て、自己責任のもとに運用する私的年金のひとつです。運用実績によって将来受け取る年金の原資が増減するところが一般的な積み立てと異なるポイントですが、それ以外にもiDeCoには大きな特徴というか、メリットがあります。
それは節税効果です。
iDeCoにが節税効果がある、ということはすでにたくさんの方に認知されていることです。
具体的に言うとiDeCoには3つのタイミングでメリットがあります。
- 掛け金を出す(拠出)とき
- 運用で利益が出たとき
- 受け取るとき
今回のブログでは1番目の「掛け金を出すとき」の節税効果について解説していきたいと思います。
iDeCoの節税効果「毎月の掛け金が全額所得控除」とはどういうことか
iDeCoの節税メリットを受ける最初のタイミングは掛け金を拠出するときです。iDeCoでは毎月の掛け金が全額所得控除の対象となり、所得税と住民税が軽減されます。
この所得控除に関しては、ん?どういうことなの?となる方もいるかもしれません。
課税の対象となる所得が少なく見積もられることによって、結果として税金が少なくなるということであって、掛けた金額がそのまま税金が少なくなるというわけではない、ということです。
所得控除について理解するために、まずは所得税とその計算の流れから見ていきたいと思います。
所得税について
所得税は、1月1日から12月31日までの1年間の個人の所得にかかる税のことです。
所得税は直接税といって、本来は個人が直接国に申告し納めるものですが、サラリーマンなど給与所得者の多くは毎月の給料をあらかじめ所得税が差し引かれた状態で受け取っています。
この制度を源泉徴収といい、事業者がそこで働く人の所得税を大まかに計算(概算)して徴収し、その人の代わりに国に治めているのです。
そして年末に正確な所得税の税額を改めて計算し、多く納めていた場合にはその分を還付金として働く人にかえし、逆に納税額が少なかった場合は追加で徴収します。この作業を年末調整といいます。
税金の申告漏れ、徴収漏れを防ぐための源泉徴収制度ですが、給与所得者にとっては勤め先の会社が税額の計算から納税までを代行してくれる便利な制度である反面、所得税という身近な税であるにも関わらず納税に対する意識が低くなってしまっている要因でもあるように思います。
「iDeCoでは毎月の掛け金が所得控除の対象になりますよ」と言われても具体的にどういうことなのかピンと来ないという人がいるのも、そのあたりに要因があるのかもしれませんね。
続いて所得税の計算の流れを見ていきたいと思います。
所得税の計算の流れ
所得税の計算は以下の流れにそって行われます。
① 1年間の収入を計算する→年間収入
② 年間収入から必要経費(サラリーマンなど給与所得者の場合は「給与所得控除」の金額)を差し引く→所得
③ 所得から「所得控除」の金額を差し引く→課税所得
④ 課税所得の金額に所得税の税率をかける
⑤ ④の金額から「税額控除」の金額を差し引く→納めるべき所得税の金額
となります。
「iDeCoでは毎月の掛け金が所得控除の対象となる」というのは、この③にあたります。
所得控除とは、納税者の事情や生活状況に合わせて所得から一定の金額を差し引く制度です。
年末近くになると、勤め先の会社に配偶者控除や扶養控除の申告書を記入したり、生命保険料控除の証明書を提出したりする、あれも所得控除を受けるための手続きです。
冒頭でも述べたように、所得控除額を差し引くことによって課税の対象となる所得額が少なく見積もられる→納めるべき税金が少なくなる、ということです。
所得税 速算表
参考のために課税所得にかかる所得税の速算表をあげておきます。課税所得に該当する税率をかけてから控除額を引くことで所得税額を算出します。
課税所得 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円未満 | 5% | ― |
195万円~330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円~1800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1800万円~4000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
住民税と所得税の違い
住民税の計算の流れも所得税と似ている部分がありますが、1月1日時点での居住地域に収める地方税である(所得税は国税)こと、所得税が所得が増えるにつれて税率が上がる累進課税制度であるのに対して住民税の税率は所得割といって一定であること、さらには住民税には所得割とは別に均等割という一定の税額があることなどの違いがあります。
また所得税が現年課税といってその年の所得に課税されるのに対し、住民税は翌年課税といって前の年の所得に対して課税されます。
そして今回のブログ記事の主題である所得控除の金額も、所得税と住民税では異なります。
<住民税の所得割>
住民税の種類 | 税率 |
---|---|
市町村民税・特別区民税 | 6%(政令指定都市では8%) |
道府県民税・都民税 | 4%(政令指定都市では2%) |
<住民税の均等割>
住民税の種類 | 税額 |
---|---|
市町村民税・特別区民税 | 3,000円 |
道府県民税・都民税 | 1,000円 |
森林環境税 | 1,000円 |
iDeCoの掛け金 いくら節税できるのか 年収ごとに
それではいよいよ年収ごとの節税効果を見ていきたいと思います。
シミュレーションの前提条件は以下の通りです。
- 企業年金のない会社員である(年収350万・500万・700万)
- 毎月の掛け金は月1万円・2万円・3万円、1年間積み立てる
- 所得控除として基礎控除と社会保険料控除*1を所得から差し引く
- 復興所得税は考慮しない
年収350万円の場合 iDeCo掛け金の節税額
税金の種類 \ 掛け金 | 月1万円 | 月2万円 | 月3万円 |
---|---|---|---|
1年間の所得税の節税額 | 6,000円 | 12,000円 | 18,000円 |
1年間の住民税の節税額 | 12,000円 | 24,000円 | 36,000円 |
合計 | 18,000円 | 36,000円 | 54,000円 |
年収500万円の場合 iDeCo掛け金の節税額
税金の種類 \ 掛け金 | 月1万円 | 月2万円 | 月3万円 |
---|---|---|---|
1年間の所得税の節税額 | 12,000円 | 24,000円 | 36,000円 |
1年間の住民税の節税額 | 12,000円 | 24,000円 | 36,000円 |
合計 | 24,000円 | 48,000円 | 72,000円 |
年収700万円の場合 iDeCo掛け金の節税額
税金の種類 \ 掛け金 | 月1万円 | 月2万円 | 月3万円 |
---|---|---|---|
1年間の所得税の節税額 | 24,000円 | 48,000円 | 72,000円 |
1年間の住民税の節税額 | 12,000円 | 24,000円 | 36,000円 |
合計 | 36,000円 | 72,000円 | 108,000円 |
iDeCoは長く使うほどメリットが大きい
いかがでしょうか?例えば年収500万円の人が毎月2万円をコツコツ拠出して20年がたった場合、所得控除による節税効果は96万円となります。25年なら120万円、30年なら144万円です。
iDeCoには今回解説してきた「掛け金を拠出する時」以外にも、「運用している時」「受け取る時」と多くの節税効果があります。
また資産運用においても、より長い期間運用していたほうが複利の効果は大きくなることは言うまでもありません。
iDeCoという制度のメリットを最大限に活かすには、できるだけ早く始めてできるだけ長く運用することが大切だと言えそうです。
前回のブログで解説した通り、2025年度の税制改正大綱で示された改正案ではiDeCoの掛け金の上限が大幅に引き上げられ、また掛け金を拠出できる期間も長くなる見通しです。
50歳から始めても、65歳までなら15年間・70歳までなら20年間、老後の資金を積み立てて運用することができます。
貯蓄や資産運用の目的は様々です。もし老後の資金のためということでしたら、やはりiDeCoを検討してみることをお勧めします。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
*1:年収の14.39%として計算しています