年収 手取り そして「壁」
- 給与…事業主から従業員に対して支払われるすべての報酬のこと。基本給はもちろん、残業手当・住宅手当などの各種の手当て、ボーナスなど。現物で支給されたものも含む。
- 給料…正規の労働時間に対する報酬、基本給。
- 所得…年間の給与の合計所得から必要経費(会社員の場合は給与所得控除)を差し引いたもの。
- 手取り…実際に受け取る金額。給与から所得税・住民税や社会保険料などを差し引いた金額。
そして、手取りの前に立ちはだかるのが「年収の壁」というイメージでしょうか?
一般的に「年収の壁」とは、年収がその金額を超えると所得税や社会保険料の支払いが発生するボーダーラインのことを言います。
一時期話題になった103万円の壁とは、その金額を超えると所得税の支払いが発生する年収のことです。
今回のブログ記事では、2025年度の税制改正における「年収の壁」について解説していきます。
「103万の壁」→「160万円の壁」
日本経済は長くデフレが続いてきましたが、近年物価は上昇傾向にあります。物価が上昇しているにも関わらず納める税金が変わらない場合、実質的に納税に対する負担が重くなってしまうと考えられています。
そして税に対する負担とともに問題になっているのが就業調整、いわゆる働き控えです。
パートタイムで働く多くの人は、税金や社会保険料の支払いが発生したり、配偶者等の扶養から外れてしまったりするなどが原因で手取りが減ることを避けるために働く時間を調整しているとされています。
働き控えによって働くことへの意欲が低下したり、そして企業にとっては必要とする人材が確保できなくなったりすることが、社会にとって大きな問題となっています。
こうした課題に対処するために、今回の税制改正では基礎控除等の引き上げや給与所得控除の最低保証額のひきあげが実施されることになりました。
基礎控除とは
基礎控除とは所得控除のひとつで、最も基本的で多くの人が利用できる控除です。
前回のブログでも触れましたが、所得税の負担を軽減する措置として所得控除という制度があります。納税者の事情や生活状況を考慮して「所得」から一定の金額を差し引く、というもの。
所得税は、その名の通り所得に対して課される税ですので…
- 所得から一定の金額を差し引く(控除する)
- 課税の対象となる所得が低く見積もられる
- 所得税の金額が抑えられる
- 「手取り」が増える
ということです。
基礎控除の引き上げ
- 基礎控除:最高48万円から58万円にひきあげ
- 基礎控除の特例①:年収200万円→基礎控除をさらに37万円上乗せして最高95万円に引き上げ
- 基礎控除の特例②:2025年・2026年の2年限定の措置として、年収200万円~850万以下の場合、収入に応じて30万円~5万円の基礎控除を上乗せする

これまでの基礎控除額は、合計所得2,400万円以下の場合一律48万円でした。
今回の改正では低所得者の税負担を配慮し基礎控除を引き上げ、そして物価上昇に賃金上昇が追い付いていない状況を踏まえて、中所得者を含めて税負担を軽減するために2年間の限定的措置として基礎控除の上乗せが実施されることになりました。
<基礎控除の引き上げ・上乗せ>
給与年収 | 基礎控除額 | |
---|---|---|
改正前 | 改正後 | |
200万円以下 | 48万円 | 95万円 |
~475万円以下 | 88万円 | 58万円 (2027年以降) |
~665万円以下 | 68万円 | |
~850万円以下 | 63万円 | |
~2545万円以下 | 58万円 |
給与所得控除の最低保証額の引き上げ
基礎控除の引き上げ・上乗せとともに、物価上昇や就業調整に対応するため実施されたのが、給与所得控除の最低保証額の引き上げです。
- 給与所得控除の最低保証額:55万円から65万円に引き上げ
この改正により、給与などの収入金額が190万円以下の場合の控除額は一律で65万円となりました。190万円超の場合はこれまで通りの数式で計算します。
給与所得控除とは
給与所得控除とは、会社員などの給与所得者が受けられる控除のことです。
所得控除は、扶養する家族がいたり、医療費がかさんでしまったりなど、個人の事情を考慮して受けられる控除の制度でした。
給与所得控除はその名の通り、給与収入のみが対象となります。
フリーランスや個人事業主と違い、会社員はスーツなど仕事に必要な支出を経費として計上することはできません。
ですのでその代わりに、必要経費相当額を「給与所得控除」として差し引く、ということです。
<改正前>
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
①162万5,000円以下 | 55万円 |
②162万5,000円超~180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
③180万円超~360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
④360万円超~660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
⑤660万円超~850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
⑥850万円超 | 195万円(上限) |
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
190万円以下 | 65万円 |
190万円超は従来通り(<改正前>の③~⑥を参照) |
「160万円の」壁へ それでどうなる?
ここまで長々と解説してきました。
それで実際にどうなるのか?
社会保険の加入要件などは従来のまま
基礎控除の最高額が95万円、給与所得控除の最低保証額が65万円、合わせて160万円。
つまり、給与収入が年間160万円までは所得税がかからなくなります。
ですが社会保険の加入義務・健康保険の被扶養者などの要件は従来通りです。
パートタイムなどで働く人はこの点を別途注意する必要があります。
最も恩恵を受けるのは給与所得者全体の5%ほど
この改正で最も恩恵を受ける「給与収入200万円以下」の人というのは300万人ほど。給与所得者の総数がおよそ6000万人(令和5年度分民間給与実態統計調査)とすると、その5%ほどになります。
給与所得者数のボリュームゾーンである「475万円以下「665万円以下」の場合では、低所得者ほどの上乗せ効果はないうえ、2年間の限定措置ですのでそれ以降は多くの場合、増税と感じる人も多いと思われます。
減税効果はスキマバイトで月2時間ほどの金額
財務省のホームページによりますと、この改正で「対象となる全ての収入階層で2万円以上の税負担減」となります。
月当たりに換算するとおよそ2,000~2,500円の負担減ということになり、「手取りが増えた」と実感できるような効果はそれほどないように思われます。
「減税より給付」という考え方も
「現役世代」「生存権」など、様々なキーワードが飛び交う政策協議に場となった年収の壁。ですが・・・
- 手取りを増やす
- 低所得者~中所得者に対象を絞った支援
という観点から見れば、減税よりも給付のほうが効果的という考え方もあります。
すでに専門家等から指摘があるように、減税は高所得者ほど恩恵が大きいため所得格差を広げる要因となる可能性があります。
また給付は可処分所得、つまり手取りを直接的に増やすことになります。よって消費喚起等の経済効果にも効果的とも言われています。
これらの点から、「もっと大規模な減税を」と考えるのか、あるいは「低賃金や、年金不安などの社会問題に地道に取り組むべき」と考えるのか。
それぞれの生活や価値観によって異なるだろうと思われます。
少なくとも今のところは、税制改革によって劇的に生活が楽になるということはなさそうです・・・。
まずは地道に、自分にできることをコツコツやっていくことが大切だと改めて思います。とても月並みですが。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。