板前FP雑記帳

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老後の資金計画とiDeCoの出口戦略について考える② iDeCo(私的年金)や退職金、どう受け取るか

iDeCoや退職金 受け取り方で手取りが変わる

前回のブログ記事では主に、新たな老後の資金戦略であるWPP理論について解説しました。

WPP理論とは

  • Work longer・・・就労延長(先発投手
  • Private pensions・・・私的年金(中継ぎ投手
  • Public pensions・・・公的年金(クローザー

と「働くこと」「私的年金」「公的年金」をそれぞれ役割分担させる継投型の資金戦略で老後を生き抜く、というものでした。

itamaefp.com


WPP理論における「中継ぎ投手」である私的年金ですが、なかでもその柱として重要な入りを占めるであろうiDeCoや企業年金、さらには退職金。
その給付をどう受け取るのかを検討することは、老後の資金計画をたてる上でとても重要なポイントになります。

なぜならば私的年金や退職金は、受け取り方によって所得の種類や課税方式が変わるからです。さらには社会保険料が発生する場合もあります。
つまり、受け取り方によって手取りの金額が変わるということ。

一時金で受け取るにせよ、年金で受け取るにせよ、それぞれの課税方式や控除額をきちんと押さえておく必要があります。

今回のブログではiDeCoなどの私的年金や退職金の受け取り方による課税方式や節税効果の違いについて解説してきます。

一時金で受け取る場合

iDeCoなどの私的年金や退職金を一時金で受け取った場合は退職所得として扱われ、退職所得控除を受けることができます。

退職所得控除は、所得控除のひとつ。所得控除についてはこれまでのブログでも解説してきましたが、納税者の事情を考慮して所得から一定の金額を差し引く、というものです。

  1. 所得から一定額を差し引く(控除する)
  2. 課税対象となる所得の金額が低く見積もられる
  3. 所得税が抑えられる
  4. 手取りが増える

退職所得控除には、控除される金額が勤続年数によって変わる、という特徴があります。

 
勤続年数 退職所得控除の金額
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数ー20年)
  
例えば続年数が30年の場合は・・・

800万円+70万円×(30-20)
→800万円+70万円×10
→800万円+700万円

退職所得控除は1,500万円となり、私的年金と退職金が合わせて1,500万円までは非課税です。
新卒で就職した企業に定年まで勤めた場合(勤続年数38年)だと、控除額は2,060万円。

また収入金額が退職所得控除を超えた場合でも、超えた分の2分の1だけが退職所得として課税対象となります。

退職所得
(収入金額-退職所得控除)×1/2

また退職所得控除は分離課税といって、iDeCo等の私的年金や退職金を一時金で受け取った場合、他に給与などの収入があっても合算されることはなく退職所得の税率に影響はありません。

こうしてみるとiDeCo等の私的年金や退職金を一時金で受け取った場合の退職所得控除、非課税となる金額がとても大きいことがわかります。

年金で受け取る場合

一方で私的年金や退職金を年金で受け取った場合は雑所得として扱われ、公的年金等控除を受けることができます。
公的年金等控除の控除額は年齢や受け取る年金の額によって異なります。

年齢 年金額 公的年金等控除の最低保証額
65歳未満 130万円未満 60万円
65歳以上 330万円未満 110万円

雑所得には公的年金や、年金で受け取ったiDeCoなどの私的年金・退職金などが合算されます。年金額が多い人の倍には、控除額を大きく上回ることになります。

また、雑所得は総合課税といって、給与所得などのほかの所得と合算して所得税額を算出します。
所得税は累進課税方式なので、課税対象となる所得額が大きくなると税率も大きくなる場合があります。

出口戦略 iDeCoはどう受け取るべきなのか

老後のために積み立てたiDeCo(あるいは企業年金など他の私的年金や退職金)、どう受けとるべきかを考えるヒントとして、受け取り方による税制の違いについて解説してきました。
「どちらが得か」という視座で考えるならば、単に額面の金額だけでなく手取りを比較する必要があります。

退職所得・雑所得それぞれの課税方式を見てみると、額面(総受給額)は年金方式のほうが多いものの、手取り額では一時金で受け取るほうが有利になりやすいようです。

統計を見てみると、実際に多くの人が一時金で受け取っています。

iDeCo受給の実態
第37回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 参考資料(iDeCoの加入可能年齢・受給開始可能年齢 拠出の在り方)
第37回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 参考資料(iDeCoの加入可能年齢・受給開始可能年齢 拠出の在り方)

こうしてみるとiDeCoの給付金は60歳で受給を開始する人が多く、またすべての年代で一時金を選択する人がおよそ8割~9割と非常に多いことがわかります。

結局答えは「人による」

ではiDeCoは一時金で受け取るべきかというと、一概には言えません。

その人の退職金の有無やその金額は人それぞれですし、年金で受け取る場合はその間の運用実績で受給額が変わるこの可能性もあります。

それに加えて私たちは人間ですので、正しいことばかりはできません。一時金でまとまったお金が手に入ると、ついつい他人におごったり無駄な買い物をしたり、あるいはもっと増やそうと無謀な投資につぎ込んだりもするかもしれません。

生きていくうえでお金は大切ですから、損か得かを考えることはとても大切です。
ですが年金などの運用や受け取り方を考えるうえで何より大切なのは、どうすれば安心して暮らせるのかを考えることではないでしょうか。

自分とよく相談して、時には専門家の力も借りて、しっかりとライフプランをたてる。
それに尽きるのではないかと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。