板前FP雑記帳

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日本市場を襲う「高市ショック」!?~金利急騰とトリプル安〜

先週の日本市場において長期金利が17年半ぶりの歴史的な急騰を見せ、そしてそれに連動するように円・株・債券が売られるトリプル安の様相を呈しています。

前回、前々回と金利、そしてその金利の水準がどのように決定されていくのかということについて触れました。
一年未満の資金の貸し借りである短期金利は足元の日銀の金融政策によって、そして期間が一年以上の長期金利は経済や物価の先行きに対する予測を反映した資金に対する需給バランスによって形作られていきます。

将来の景気が良くなりそうなら、資金に対する需要も増えて金利は高くなっていきます。
反対に景気が悪くなりそうと予想されれば、企業は投資を控え、個人の消費も伸びません。資金への需要は減って金利は下降していきます。
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このように将来の経済状況に期待を敏感に映し出すゆえに、長期金利は「経済の体温計」と言われています。
体温計ですので高すぎても低すぎても良くありません。

1:長期金利の歴史的急騰と国債暴落のメカニズム

長期金利の代表的な指標が、直近に財務省が発行した10年物国債の利回りとされています。
そしてこの、10年物国債の利回りが急騰しています。

財務省「国債金利情報」をもとに板前FP雑記帳が作成

20日の国内債券市場では、新発10年物国債利回りは一時1.835%となり、これはおよそ17年半ぶり(2008年6月以来)の高水準、上げ幅としても前日比が一時0.07%上昇し7月14日以来の大きさとなりました。
www.nikkei.com
こうした長期金利の急騰は何を意味するのか?
「長期金利は経済の体温計」と言われていると先ほど述べましたが、この急上昇が将来の経済への期待感の表れなのかと言われれば、そうではないことが分かります。

債券の「利回り」とは、債券の購入金額に対して一定期間のうちに得られる収益の割合のことをいいます。
債券の価格が下落すると、その利回りは上昇します。

つまり、ものすごい勢いで国債が売られてその価格が急落しているのです。

高市政権の大型経済対策による、財政悪化への懸念が強まっていることがその背景にあると考えられています。

「期待感」を打ち砕いた財政拡張への市場からの評価

高市政権によって取りまとめられ21日の閣議で決定された「総合経済対策」は21.3兆円と、その規模において市場の予測を大きく上回るものとなりました。
こうした大型予算には、その裏付けとなる国債の発行が伴います。

また高市首相は2025~2026年度までにPBを黒字化するという前政権からの目標について、「単年度のプライマリーバランスという考え方については、取り下げると考えていただいて結構」と明言し、従来のプライマリーバランス(基礎的財政収支、PB)の単年度黒字化目標を事実上撤回しました。

こうした「国債の大量増発」と「財政規律の緩み」に対する懸念は、金融市場においては国債価格の急落という結果によってその評価が下されたとも考えられます。
すでに触れたように、国債価格の急落はすなわち利回り、長期金利の急騰を意味します。

「借換債」とは?:政府は借金で借金を返す自転車操業

日本政府の債務残高、つまり国の借金は国債と借入金、政府短期証券を合わせた合計で2024年度末時点において1323兆7155億円に達しています。
この債務残高は、日本の名目国内総生産(GDP)の2倍以上に相当し、対GDP比で約236%(IMFの2025年10月推計値)という、G7諸国を含む先進国の中でも突出して高い水準となっています。

「急騰した長期金利はこれから発行する国債の金利に影響をあたるけど、過去に発行された国債の金利には関係ないのでは?」と考える人もいるかもしれません。

ですが日本政府は過去に発行した国債に対して、「借換債(かりかえさい)」という国債を新たに発行することによって返済しているのです。
当然のことながら、長期金利が急騰している局面での借換債の発行は、より高い金利での借り入れを意味します。
このようにして長期金利の急騰は借換債の金利に直接影響を与え、結果として過去に発行された国債の利払い費にも影響を与えるのです。

そして利払い費の増加による財政のひっ迫は、政府が目指す財政健全化の達成をより困難にし、防衛や社会保障などの重要政策に対する予算を圧迫する恐れもあります。

2:株安はなぜ起こったか?財政不安と「台湾発言」「米国調整」の複合要因

こうした日本の財政悪化に対する懸念の影響は、債券市場だけにとどまりませんでした。

21日の東京株式市場では日経平均株価は反落し、前日比の下げ幅は一時1,000円を上回りました。
この下落の主な要因は、米国市場で割高となった感のあるAI関連株・半導体関連株への調整や過剰な投資・バブルに対する警戒感が広がり、こうした流れが日本の市場へも波及したと考えられています。

ですが先週を通してみると値下がりしたのは半導体関連だけではなく、18日の日本の株式市場においては東証33業種すべてが下落。リスク回避の動きは株式市場でも見受けられます。

中でも百貨店などのインバウンド関連株の値下がりが目立ちました。
高市首相の台湾に関する発言に端を発する日中関係の緊張の高まりから、関連する銘柄に悪影響が出ています。
<先週末の主要指数の終値>

指標終値前週末比
日経平均株価48,625.88-1,750.65
TOPIX3,297.73-62.08

3:なぜ金利上昇でも円安が止まらないのか?

高市首相が勝利した10月の自民党総裁選の前は1ドル=140円台後半でしたが、21日の東京外国為替市場では157円台まで円安・ドル高が進みました。

一般的に、金利が上昇するとその国の通貨の魅力が増すため、円高要因とされます。
しかし、高市政権のケースでは、金利上昇の背景にある「財政悪化懸念」が、逆に円安を加速させるリスクとして市場で警戒されています。

また高市氏がかつて「いま金利をあげるのはアホ」と発言したように、高市政権の積極財政政策が日銀の金融政策に強いプレッシャーを与えていると考えられていることに加えて、日銀が利上げに消極的な姿勢を続けていることが、現在の急激な円安を助長する最大の構造的な原因であるとも言えます。

こうした中で片山さつき財務相は為替介入に関して以前より踏み込んだ発言をしましたが、”口先介入”とみられたのか市場の反応は鈍く・・・。

以下、Bloombergの記事より引用。

 「市場は日本の当局者の発言に鈍感になってきている」とナショナルオーストラリア銀行の為替ストラテジスト、ロドリゴ・カトリル氏は話し、円がおもちゃのように扱われていると警鐘を鳴らす。

www.bloomberg.co.jp

警鐘:悪循環が私たちの生活にもたらすリスク

このように日本の財政に対する信用が失墜すれば、国債の価格はさらに急落する恐れもあります。

国債価格の急落→長期金利の上昇→利払い費の増加による財政悪化への懸念→国債価格のさらなる急落・・・、という悪循環に陥る可能性も考えられています。

国債価格の急落は日本政府の財政に悪影響を与えるだけでなく、国債を保有している金融機関は多額の評価損を抱えることになり、特に償還期間の長い超長期国債の価格変動幅は大きく、損失へのリスクの高まっていると言えるでしょう。

また長期金利の急騰は企業に対する貸出金利や個人向けの住宅ローンの上昇につながり、企業経営や家計を圧迫する恐れもあります。

  • 消費者物価指数、特に食料価格は高止まりの状態。財政出動によって消費や需要を刺激すれば、さらなる物価高を誘発する恐れ。
  • 日本財政への信用の低下がさらなる円売りを加速させる。
  • 長期金利の急騰による利払い費の増加が政府からの日銀の金融政策に対する圧力を強め、利上げに踏み切るのが遅れればさらなる高インフレの長期化・固定化も。

このように、今回の総合経済対策がさらなる円安や物価高を招くリスクが指摘されているのです。

結論:「規模感」よりも市場から問われる「財政の持続性」と「政策の実効性」、そして英国「トラスショック」の教訓を教訓とできるのか?

情報番組などを見ていると、「高市カラー」「規模感」「期待感」などのイメージや情緒に訴えるような伝え方が目につきます。

ですが市場の評価を見る限り、今回の経済対策が金融市場における財政悪化への懸念や、そもそもの政策の実効性を十分に吟味していないと受け止められているように思われます。

政治信条についてこの場で問うことはありませんが、デフレ脱却が目標であった安倍政権時とは全く異なる現在の状況で、その政策(アベノミクス)を継承しようとすること自体に、無理があるのではないでしょうか?

最後に、先ほどのBloombergの記事からもう一度引用します。

また、ドイツ銀行の外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は、トラス英政権の大型減税案に伴う財政不安で英国債とポンド相場が急落した22年の危機をほうふつとさせ、無秩序な資本逃避が憂慮されると指摘した。

英国でおきた「トラスショック」をほうふつとさせる現在の日本の経済状況。
私たちはすでに「高市ショック」の中にいるのかもしれません。

いずれにせよ、情報番組の論調をうのみにするのではなく、市場の指標や動向などをきちんとチェックして、そのギャップが何を意味しているのかを理解することがとても重要になると言えます。

そしてこうしたリスクから自分の生活を守るために必要なことは何なのかを、考えていきましょう。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。