板前FP雑記帳

板前として「働くFP」からの、普通の暮らしを守るためのいくつかのヒント。

住宅ローンはまだ返すな?控除期間中にNISAで資産を増やす『あえて急がない』返済戦略

あえて「急がない」、という選択

マイホーム購入は、人生の大きな節目です。
資金計画・物件選び・諸々の面倒な手続きや引っ越し・・・、そうした一連のプロセスを一つずつ乗り越えてやっと手に入れた我が家は、きっと新しい生活への希望に満ちていることでしょう。

ですがその希望には、ほとんどのケースでついて回る心配事があります。
それは、借金です。

「借金は早く返して、身軽になりたい」
そう思うのは普通の人情で、それは住宅ローンにおいても変わりません。
住宅金融支援機構のアンケート調査によると、住宅ローン利用者の半数以上が「将来的に繰り上げ返済を行う予定・検討している」と答えています(2024年4月「住宅ローン利用者の実態調査」)。

ですが結論を急ぐ前に、少し立ち止まってみましょう。
そして手元に電卓があれば、なお良し。

  • 現在の住宅ローンの変動型金利:0.4~0.6%
  • 年末残高の0.7%が戻ってくる住宅ローン控除

そう、賢いあなたならきっとわかるはずです。
ここまでは電卓すら必要ないかもしれません。
返済を「あえて急がない」ことが、家計管理において最も合理的な選択肢になることがあるのです。

そして急ぐのをやめた結果として手元に残った資金を、NISAなどの非課税制度で運用したら・・・。

今回は住宅ローン控除期間中の「繰り上げ返済vs資産運用」の損益分岐点、そして「感情と数字のバランス」を賢くとるための戦略について書きたいと思います。

1:数字で比較する「損益分岐点」

早く返してしまいたい、という「感情」はひとまず横に置いて、まずは「数字」という事実をまな板の上にのせて向き合ってみたいと思います。

判断基準は極めてシンプル、「どちらが得か」。
つまりはお金を借りる際のコストである住宅ローンの金利と、手元の資金を運用することで得られるリターンを比較すればよいのです。

2025年時点での住宅ローン変動金利の相場は、およそ0.4%~0.6%です。そして住宅ローン控除では借入残高の0.7%を上限として税金が差し引かれます。

住宅ローン控除は2022年の税制改正によって、住宅ローンを借りるだけで儲かるという、いわゆる「逆ザヤ」の状態は是正されました。
それでもなお「支払う金利」と「戻ってくる税金」が相殺され、実質的な金利負担(コスト)はゼロに近い状態ではあるのです。

もちろんゼロコストではあっても、それが借金であることには変わりはありません。
きちんと返済しなければならないことにも変わりはないのですが、急ぐ必要はないということです。

手元に100万円があるとします。
繰り上げ返済の効果は、借金の元本を減らすことによって、その元本にかかるはずだった利息負担をなくすことができるということに最大の意義があります。

ですが低金利と住宅ローン控除によって借り入れのコストを相殺できるのであれば、そこに「投資」という視点を加えてみることも良いかもしれません。

  1. 繰り上げ返済した場合・・・将来支払うはずだった利息負担を減らすことができる。だが住宅ローン控除の期間中は、ローン残高が減ることで控除額も減ってしまうため実質的なメリットは小さくなる。
  2. NISAで運用した場合・・・金融庁の試算では、20年間の長期・分散・積立投資を行った場合の運用成果は年率2%〜8%とされている。多くのNISAユーザーに選ばれている「全世界株式」の過去30年の円ベースの平均リターンは、時期にもよるが概ね7%超。

長期間の積立投資によるリターンを保守的に見積もって年率4%とした場合でも、「ほぼコストがかからない借金」を返すために資金を使うか、それとも「年利4%以上が期待できる場所」で働かせるか。資産が増えるスピードの差は歴然です。

住宅ローンの繰り上げ返済と投資を比較した場合の損益分岐点は、以下の式で表せます。

住宅ローンの「繰り上げ返済」と「投資」の損益分岐点を表す数式
住宅ローンの「繰り上げ返済」と「投資」の損益分岐点

変動型の低金利と住宅ローン控除で左辺がほぼゼロになるのであれば、繰り上げ返済はせずに運用するのが正解だとお分かりいただけると思います。
金利が上昇したとしても、このバランスが逆転するまでは、慌てて繰り上げ返済をする必要はありません。

2:手元に残した資金をNISAで運用

通常投資で得た利益には約20%が課税されますが、NISAの運用で得た利益には(投資の枠内であれば)税金がかかりません。

住宅ローン控除で税金を減らすことによって手元に残した資金を、NISAという税金がかからない制度を利用して増やす、というのは効率の良いスキームだと言えます。
また投資対象によってインフレ対策・円安対策になるところも魅力的です。

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まとめ:「感情か数字か」どちらかではなくどちらも

料理にはレシピがあります。
料理の本やインターネットで、私たちはそのレシピを学ぶことができます。

ですがレシピ通りにつくったとしても、出来上がる料理が、いつも同じになるわけではありません。
ちょっとした火加減やプロセスの完成度の違い、例えば同じ大きさに切るとレシピにはあっても、同じ大きさに切る技術がなければレシピ通りにはなりません。

そして一般に公開されているレシピは、多くの場合、読み手の個人的な事情までは踏み込みません。
健康面から控えているものや好き嫌いなど・・・。

ここまでは数字と合理性から住宅ローンの繰り上げ返済とNISAへの投資を対比してみてきました。
こうしたレシピを活かすには、あなたという「読み手自身」の生活やそれにまつわる事情をきちんと理解する必要があります。

  • 投資から得られるリターンの過去の実績や統計は、将来起こるかもしれない元本割れのリスクについては何も保証してくれません。
  • 人生に必要な資金は、マイホームだけではありません。数年後に必ず必要な資金がある場合、投資に回さず現預金として手元に残しておくこともまた合理的であると言えます。

市井に生きる板前FPとして、ローンの金利負担を上回るリターンの見込みがあれば投資を勧める、という自分のスタンスは変わりません。
それは儲けるため、というよりはインフレなどのリスクから生活を守るためでもあります。

ですがどのようなスキーム、あるいはレシピも、あなたが必要としている「数字」や大切にしたい「感情」への理解がなければ、それは明らかに不完全なものです。

このブログがその理解のための手助けになれば幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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・50代、60代のための新NISA
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