卵の値段が下がりませんね。
店頭価格は昨年よりも2割高く、「エッグショック」と言われた2023年の基準をすでに上回っています。
備蓄米放出があれだけ騒がれた米の価格も、相変わらず高止まりしたまま。
現在の物価高の影響を最も受けているのが、食費だと思われます。
仕事の上でも生活の上でも、食材費の高騰は悩みの種です。

こうした物価高への対策として、与野党が「食料品消費税ゼロ」を公約に掲げています。
食料品にかかっている8%の消費税がゼロになれば生活が楽になる、そう考える人は自分の周りにもいます。
ですがもし仮に食料品の消費税がゼロになった場合、私たちの働く飲食業界にとっては大きな逆風となる可能性が指摘されていることをご存じでしょうか?
今回の記事では、一見メリットに見える食料品消費税ゼロが飲食店にもたらす、「需要減」「現場の混乱」「経営の圧迫」という3つのリスクについて解説します。
業界の仕組みを知ることは、そこで働く私たち自身の生活を守ることにもつながります。
まずは知るところから、そして将来への不安を解消するための家計防衛へと繋げていきましょう。
- リスク1:「外食」と「中食・自炊」の間に広がる価格差
- リスク2:「店内飲食」「テイクアウト」の混在による現場の混乱
- リスク3:仕入れ税額控除がなくなる
- 飲食店で働く人が「今」やるべき家計防衛
- まとめ:逆風というピンチを学びのチャンスに
リスク1:「外食」と「中食・自炊」の間に広がる価格差
食料品消費税ゼロが実現した場合、価格競争力の差によって、消費者の外食控えを加速させる恐れがあります。
現在でも外食(10%)とテイクアウト(8%)の間には、2%の税率の差があります。
食料品消費税ゼロではその差は一気に10%に。
例えば、仕事の合間のランチで利用してくれるお客様に、1,000円のランチを提供する場合。
- 定食(店内飲食):支払額1,100円
- お弁当(テイクアウト):支払額1,000円
価格が同じだとしても、税率の差によって支払う金額には100円の差が生じます。
さらに、仕事帰りに寄るスーパーで買う冷凍食品やお惣菜も消費税がなくなるのなら、お昼ご飯のためにお弁当を持参する人も増えるかもしれません。
2019年の消費税増税時にも、外食産業が客離れに苦戦する中、食料品スーパーの総菜は前年比2.2%増と売り上げを伸ばしました。
価格差による消費行動の変化は、すでに実証されているのです。
どのような産業にも、お客様の「裾野(すその)」があります。
山の狭い頂点から、ふもとの平野へと緩やかに広がっていく様を思い浮かべてみてください。
- コア層(頂点):食べ歩きや飲み歩き、特定の好きなお店や料理のファンなど
- ライト層(裾野):時間がない時や疲れた時の息抜き、なんとなく利用する人など
こうした頂点から裾野にかけての広がりこそが、飲食業界の売り上げ規模を支えています。
食料品消費税ゼロによって、「たまに」「なんとなく」利用してくれる人たちから外食という選択肢が消えてしまう可能性もあるのです。
食料品だけでなく、光熱費や住宅ローンの金利も上昇するなど生活に関する支出が増える中、外食という体験よりも節約によって家計を守るという選択をする人が増えるであろうことは想像に難くありません。
リスク2:「店内飲食」「テイクアウト」の混在による現場の混乱
食料品消費税ゼロによって外食離れが起きた場合、居酒屋や定食屋なども生き残りのために「テイクアウト」に活路を見出すことになるでしょう。
しかしそこには、問題もあります。
同じお店の同じ商品であっても、持ち帰りと店内とで「0%」と「10%」の税率で線引きすることになり、現場の負担やリスクが増えることが懸念されます。
【想定されるオペレーション負荷とトラブル】
- レジの改修業務
- スタッフ教育
- イレギュラー対応(店内で食事中の人が「お土産」を注文するなど)の増加
- 会計ミスによるクレームなどのトラブル対応
- 経理・会計処理などのバックオフィス業務の煩雑化
税率が変わればレジシステムのアップデートや対応機種への変更など、新たなコストが発生します。
それに伴う作業も増え、レジ業務はこれまで以上にやるべきことが増えるのは確実です。

オフィス街のランチでは、どれだけ混雑していても、基本的には皆さん「個別会計」です。
団体のお客様の個別会計が重なりレジには長蛇の列、そんな状況で「イレギュラー対応」や「レジ会計のミス」が起きたら、想像するだけで大変そうですね。
作業負担とクレーム対応による現場スタッフの精神的なストレスは、人手不足と人材定着率の低さに悩む飲食業界にとっては見過ごせない問題となる可能性も。
さらに、経営面でも大きな課題が。
これまで多くの大手ファーストフードやコーヒーチェーンでは、「わかりやすさ」を重視して店内も持ち帰りも「同じ税込み価格」を採用してきました。
税率の差が10%になった場合、こうした「わかりやすさ」を維持することは難しくなります。
税率の差によって店内で食事する人の割合が減った場合、店舗設計や出店計画など経営戦略そのものの見直しも必要になってきます。
飲食店の現場で働く私たちにとっては、売り上げは伸び悩むのにやるべき業務やクレーム対応ばかりが増えることになり、労働環境が悪化するリスクがあるのです。
リスク3:仕入れ税額控除がなくなる
食料品消費税ゼロによって、飲食店はその「営業」や「オペレーション」だけでなく、「資金繰り」も影響を受けます。
現在、お客様からお預かりした消費税のうち、仕入れにかかった消費税を差し引いて国に納税しています。
この仕組みが、仕入税額控除です。
この仕入税額控除によって、飲食店が消費税を二重に負担(業者からの仕入れに支払う消費税・お客様からお預かりした消費税の納税)することがないようにしています。
仕入の食材に消費税がかからなくなると、この仕入税額控除が受けられなくなります。
お客様からお預かりした消費税をそのまま納税することになり、納税額が増えます。
「仕入の食材の消費税がなくなるから、トントンじゃないか」と思われるかもしれません。
ですが、これまで仕入れの度に食材の消費税を支払うことで、事実上の「分割前払い」をしていたということになります。
仕入税額控除が受けられなくなると、確定申告で一度にまとめて支払うことになり、資金繰りに苦しむ飲食店が増える恐れがあるのです。

消費税の滞納額は、コロナ禍以降は増加傾向に。
飲食業界は、そもそもの収益構造が厳しい業界です。
特に小規模の個人店にとっては、手元に残る資金の管理も難しくなり、キャッシュフローの一時的な圧迫が死活問題になることもあります。
さらにはインボイス制度の導入で疲弊したバックオフィスに、新たに事務負担が増える可能性もあるのです。
飲食店で働く人が「今」やるべき家計防衛
業界の仕組みを知ったうえで、自分たちの生活を守るためにやるべきことは何かについて考えていきたいと思います。
生活防衛費の確保
飲食業は景気や政策の影響を受けやすい商売です。
今回議論されているような税制だけでなく、コロナ禍においても私たちの仕事は「不要不急」とされ、休業や制約を余儀なくされました。
特に雇用保険に加入できない個人店で働く人やパート・アルバイトの人などは、もしもの時に社会保障が受けられなかったりやシフトが削られてしまったり、不安を感じることも多いと思います。
社会的な混乱やケガや病気で働けなくなることは、誰にでも起こりうることです。
そうしたリスクが現実になっても、当面の生活を維持できるように「生活防衛費」を確保しておきましょう。
生活防衛費の目安は、基本的に3~6ヵ月とされています。
3ヵ月分あればひとまずは安心、6ヵ月分あればたいていの事態には対応できると考えられています。
もちろん、小さな子供など「守るべき家族」がいる場合には、より多くの備えが必要になります。
一般的に一人暮らしの平均的な費用は月16万円ほどとされています。
【生活費の内訳】
- 家賃または住宅ローン
- 食費
- 光熱費(電気・ガス・水道)
- 通信費(携帯電話・インターネット)
- 保険料(生命保険・医療保険など)
- その他の日用品(トイレットペーパーや歯ブラシ)など必要最低限の支出
苦しい時の借金は、その返済が後になって人生の選択肢やささやかな楽しみを奪うことになります。
生活防衛費という守りのお金があれば、焦って条件の悪い転職をしたり、金利の高い借金をしたりする必要がなくなります。
もしもの時の備えですから、銀行口座などの「すぐに引き出せる」形で保有しておくことも重要です。
家計の見直しによって支出を減らす
人生設計、生活防衛、資産運用、そうしたファイナンシャル・プランニングの基本となるのが家計管理です。
家計を黒字にできなければ、生活防衛費を確保するどころか、そもそもの貯蓄を始めることもままなりません。
収入をすぐに増やすことは難しいですが、支出を減らすことは今日からできます。
やみくもに「我慢」をしても長続きしないので、以下の手順で我慢をおさえながら確実に支出を減らしていきましょう。
- 現状の支出の把握:家計簿アプリ、手書きの家計簿、自分に合っているものならどちらでも大丈夫。まずは一か月の支出を把握しましょう。
- 固定費の見直し:住居費、通信費(スマホ代)、保険料、サブスク。毎月決まってかかる費用は削減効果が高いため、まずはここから手を付けましょう。
- 変動費の見直し:食費や日用品、化粧品などは我慢や安いものへの置き換えですぐに効果が出る一方、日々の暮らしを支える「ささやかな楽しみ」でもあります。ストレスはかえって逆効果になるので、外食などの項目ごとにあらかじめ予算を決めておくことも有効です。
- 特別費の予算化:保険料、賃貸マンションや車検の更新、帰省の費用など、固定費とは別に年単位でかかる費用をあらかじめ予算化し、確保しておく。
- 貯蓄を「仕組化」する:余った分を貯蓄するのではなく、最初からないものとして貯蓄分を天引き・自動振替する仕組みを作る。
固定費の見直しは、一度手を付ければずっとその効果が続きます。
家計黒字化の最短ルートです。
変動費の見直しでは、日々の楽しみまで無理に削る必要はありません。
ただ、疲れた休憩中の自動販売機の缶コーヒー、仕事帰りのコンビニの缶酎ハイ、深夜のATM利用の手数料など、「ラテマネー」と呼ばれるなんとなくの出費は積極的に見直しましょう。
一日300円としても、一か月で約9,000円です。
ラテマネーによる家計の圧迫が、日々の楽しみどころか却ってストレスになっている可能性もあります。
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見直しの効果は、「本当に欲しいもののために使えるお金」として自分に返ってきます。
収入を増やすための努力
飲食業界は「拘束時間が長い」「体が資本」という特徴があるため、アルバイトの掛け持ちなどの単純に一日の労働時間を増やす方法はあまりお勧めできません。
無理をして体を壊してしまっては、かえって収入を減らすことになり本末転倒です。
本業でのスキルや知識を深めていく努力は当然のこととして、それによって得た「経験」をてこ(レバレッジ)に、副業で収入を上げていく方法にアプローチすることもできます。
- 飲食業の経験を生かした単発アルバイト:マッチングサイトを利用した休日の単発アルバイトです。洗い物から出張シェフまで、その人の希望やスキルによって単価もさまざま。初めての店に行って「おじさんだからハズレだと思ったけど洗い物をテキパキとこなす謎の人」というキャラを休日の数時間演じるのも、小遣い稼ぎと気分転換を兼ねてお勧めです。たまには他業態をのぞいてみるのも良い経験ですよ。
- レシピの提供や監修:本業でメニュー開発の経験がある場合、クラウドソージングのサイトに応募して仕事を得ることもできます。「アルバイトにも調理できる原価○○円以内・単価△△円の宴会コースの作成」など。寿司を握れる、あるいは栄養士やフードコーディネーターの資格があると、選択肢が広がります。
- 専門特化型の情報発信(ブログ・SNS):「家庭でできるプロの味」「包丁の研ぎ方」「飲食店の家計管理」など、プロならではの視点を発信し、広告収入やアフィリエイトを得る方法です。「現役板前によるFPブログ」などというニッチ極まりないブログもこの世には存在します。初期費用は低いですが、収益化まで時間はかかります。
個人的な経験から言えば、「休日に経験を活かせる単発アルバイト」が最も手っ取り早く、リスクも少ない選択肢だと思います。
まとめ:逆風というピンチを学びのチャンスに
食料品消費税ゼロは、一見すると私たちの生活を助けてくれる政策のように見えて、実は飲食業界にとって大きな逆風となるリスクがあるのです。
飲食業界の声は決して影響力が大きいとは言えず、制度はこれからも私たちの意思とは関係なく変わっていく可能性があります。
しかしながら、こうした逆風をきっかけに、改めて自分が働く業界について学んだり、あるいは自分を見つめなおし新たな知識やスキルを身に付けるきっかけとすれば、ライフプランに新たな可能性が生まれることもあります。
そして何より、どのような職業であっても、リスクを乗り越え豊かに生きていくためには、家計管理こそがその基本であることに変わりはありません。
この逆風を、家計と向き合うきっかけにしましょう。
FPの知識は、お金という食材の無駄をなくし、有効に生かすためにあります。
これからも調理場で汗をかきながら、学んだことをこのブログで共有できればと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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【飲食業界の「お金」と「働き方」】
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【参考資料リンク】
・住友生命「スミセイ我が家の台所事情アンケート」2025
・日本総菜協会「2019年版総菜白書」
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