板前FP雑記帳

板前として「働くFP」からの、普通の暮らしを守るためのいくつかのヒント。

居酒屋の倒産が過去最多ペース。中小飲食店が生き残るための「インバウンド戦略」とは?

清潔感のある割烹の白木のカウンター。美しい刺身の盛り合わせを外国人観光客がスマートフォンで撮影している後ろ姿の風景。飲食店にとって戦略的なインバウンド需要の取り込みが重要であることを象徴している。
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飲食業、とりわけ居酒屋業態に、大きな淘汰の波が押し寄せています。

東京商工リサーチの調査によると、居酒屋をはじめとする飲食店の倒産件数は過去最多ペースで推移。
長引く物価高、深刻な人手不足、そして消費者のライフスタイルの変化によって、従来の「とりあえず」という居酒屋のビジネスモデルが限界を迎えているのは間違いないようです。

居酒屋業界は、大手チェーンと個人店が街の中で共存し、ビジネスマンから学生まで幅広い客層を取り込んできました。
しかしながら、コスト増を背景に「飲み放題コース」が5,000円を超えるようになると、消費者の財布の紐は一気に固くなります。

もともと飲み会自体が減少傾向にあるのに加え、「どうせ5,000円以上するなら焼肉かイタリアンにでも行こう」といったように競合相手が専門店にも広がり、さらには「外食をやめて宅飲み」という選択肢を選ぶ人も増えてきました。

こうした厳しい経営環境の中、個人経営や中堅規模の居酒屋・飲食店にとっての課題が、「インバウンド需要の戦略的な取り込み」であると言えます。
この東京商工リサーチのレポートは、このように結ばれています。

会社員だけでなく、好調なインバウンド需要を取り込めない「居酒屋」は厳しい状況が続く。物価高で価格競争に巻き込まれ、客足が遠のき、ジリ貧の悪循環から抜け出せない「居酒屋」の淘汰は、しばらく続きそうだ。

今回の記事では、街の小さなお店がなぜインバウンドを取りに行くべきなのか、その理由と取りうる具体的な対策について解説していきたいと思います。

第1章:なぜ今、中小規模の居酒屋にインバウンド需要の取り込みが必要なのか?

「外国人観光客の対応は大変そう(面倒くさい)」
「うちのような小さな店には関係ない」
このように考える飲食店経営者は少なくありません。
あるいは経営者自身は意欲的であっても、現場スタッフが外国人のお客様とのコミュニケーションに及び腰になっているケースもあります。

しかし、現在の日本の外食産業が抱える構造的な課題と、変化し続ける観光トレンドを俯瞰すると、インバウンド需要の獲得は生き残るための必須戦略であることがわかります。

「国内客」と「インバウンド客」の行動・収益比較表。国内客が低単価で来店が特定時間に集中するのに対し、インバウンド客は高単価で時間が分散する傾向があり、インバウンド需要の取り込みが収益性向上に繋がることを示しています。
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1. 団体旅行から「個人旅行(FIT)」へのシフトによる個店への追い風

インバウンド市場において現在起きている最大の変化は、訪日観光客の行動様式が、従来の大型バスで移動する団体パッケージツアーから、個人旅行(FIT:Free Independent Travel)へと急速にシフトしている点です。

現在の観光客は、ガイドに連れられて観光客向けの大型レストランに行くのではなく、自らスマートフォンで積極的に情報を検索し、行動しています。
そこでしか得ることのできない「ローカルな食文化や体験」求めて、新橋の路地裏をさまよい歩き、新宿の思い出横丁を動画に収め、有楽町のガード下で肩を寄せ合います。

赤提灯のぶら下がる入り組んだ路地の居酒屋や、地元民に愛される小さな個店こそが、彼らにとって最高に魅力的なコンテンツなのです。
このトレンドの変化により、インバウンド需要はもはや大企業や観光地の大型店だけのものではなく、街の中小規模の飲食店にこそ大きなチャンスが巡ってきています。

2. 国内需要の減少と客離れの補填(「5,000円の壁」の崩壊)

現在、多くの居酒屋を苦しめているのが、急激な原価高騰とそれに伴う値上げのジレンマです。
冒頭でも触れたように、かつての日本の宴会や飲み会における客単価の目安は「飲み放題込みで5,000円」でした。
しかし、食材費、光熱費、人件費が軒並み上昇する中、この「5,000円の壁」を維持することは極めて困難になっています。

やむを得ず値上げに踏み切れば、生活防衛意識が高まっている日本人消費者は敏感に反応し、「宅飲み」へと移行してしまいます。
縮小する国内のパイ(日本人客)だけを奪い合っていては、売上のジリ貧は避けられません。
この減少分を補填する全く新しい顧客層として、ローカルな体験を求めるインバウンド客の獲得が不可欠なのです。

3. 高い客単価の獲得

日本人客の財布の紐が固くなる一方で、外国人観光客にとって日本の外食は「驚くほど安くて高品質」に映っています。
歴史的な円安の追い風もあり、彼ら自身の購買力が高いということもあるでしょう。

また、個人旅行(FIT)を楽しむ外国人観光客は、「食」を単なる空腹を満たすものではなく、SNSを通じて他者と共有するための、特別なエンターテインメントとして捉えています。
そのため、「せっかく日本に来たのだから」と、和牛、新鮮な海鮮、地酒などの高単価なプレミアムメニューを、抵抗なくオーダーする姿もよく見受けられます。

「アイドルタイム」の収益化による生産性向上

飲食店経営における長年の悩みの種が、ランチとディナーの間に発生する「アイドルタイム(空き時間)」です。

しかし、観光スケジュールを優先する外国人観光客の行動パターンは、日本で暮らす私達とは大きく異なるケースがあるようです。
ランチのピークタイムを外して15時に遅めの昼食をとったり、夜のナイトライフに備えて16時から早めの夕食(ちょい飲み)を楽しんだり。

つまり、インバウンド客を取り込むことは、これまで利益を生まなかった「死に時間」をキャッシュポイントに変え、店舗の稼働率の向上につながるのです。

第2章:インバウンド集客を成功に導く「オンライン集客」戦略

自ら情報を検索してローカルな店を探すFIT層を取り込むためには、まずか彼らに自分たちのお店を知ってもらわなければなりません。
「食べログ」や「ぐるなび」は、日本で飲食業を営む人にとって無視することができないプラットフォームですが、相手がインバウンドとなると話が変わってきます。
彼らが日常的に使っているグローバルスタンダードなプラットフォームの中で、お店の情報を最適化する必要があります。

Googleマップの圧倒的活用(MEO対策)

外国人観光客が旅行先で現在地周辺の飲食店を探す際、最も利用されるのがGoogleマップです。
彼らは「Izakaya near me(近くの居酒屋)」といったキーワードで検索し、評価が高く、魅力的な写真がある店に足を運びます。

したがって、Googleビジネスプロフィール(GBP)への登録と情報の最適化(MEO対策)は最優先事項です。
店舗の基本情報だけでなく、メニュー内容やお店の特徴を英語や中国語などの多言語で登録しておくことも重要だと言えます。

また彼らは体験を求めて情報を収集するだけではなく、自らの体験を積極的に発信するのです。
外国語の口コミに対して丁寧に返信を行うことで、Googleからの評価が高まり、検索結果の上位に表示されやすくなります。

2. 海外主流のグルメ・旅行プラットフォームへの登録

Googleマップと併用して、世界中の旅行者が信頼を寄せるグローバルプラットフォームに店舗情報を掲載することも有効です。
代表的なものをいくつか挙げてみましょう。

  • Tripadvisor(トリップアドバイザー): 世界最大級の旅行口コミサイト。欧米豪からの旅行者を中心に絶大な影響力を持ちます。
  • Yelp(イェルプ): 特に北米(アメリカ・カナダ)からの観光客が日常的に使用しているレビューサイトです。
  • 大衆点評(ダージョンディエンピン): 中華圏からの観光客にとっての「食べログ」的インフラアプリです。中華圏からの訪日客は数が多いため、集客力に直結します。

SNSでの「視覚的アピール」と英語ハッシュタグ

言語の壁を最も簡単に越えられるのが「視覚情報」です。
「焼き鳥が炭火で焼かれ、煙が立ち上るシズル感のある動画」「観光客が立ち入ることが難しい市場での仕入れの風景」、または「普段は見ることのできない仕込みの現場」など、日本の居酒屋ならではのライブ感をInstagramやTikTokで発信しましょう。

その際、「#TokyoIzakaya」「#WagyuBeef」「#JapaneseFood」といった英語のハッシュタグを添えることも有効です。
独自の体験を求めるFIT層は、旅行前からSNSのハッシュタグ検索を使って情報収集を行うことが多く、そこへの直接的なアプローチが期待できます。

第3章:リピートと口コミを生む「店内環境」の整備

仮にオンラインでの集客に成功し、実際に店舗へ足を運んでくれても、受け入れ態勢が整っていなければトラブルや低評価の口コミに繋がってしまいます。
言語が通じなくてもスムーズに営業を回すために、「3つの大きな壁」を排除する環境整備が求められます。

1. 多言語・写真付きメニューの導入(指差し注文の実現)

スタッフが外国語を話せなくても問題ありません。
最も効果的なのは「写真が付いた、かつ英語(または多言語)併記のメニューブック」を用意することです。
顧客は写真を見て指を差すだけで注文ができ、スタッフ側のオーダーミスも防げます。

英語(多言語)メニューを自作する場合、AIの活用も非常に有効です。
翻訳アプリによる直訳を避け、「唐揚げ」と訳すのではなく、「日本の『唐揚げ』を、外国人が食べたくなるように食材と調理法を含めて英語で説明して」とAIに指示(プロンプト)を出せば、的確で食欲をそそる英訳が作成できます。

また、アレルギーや宗教上の理由で厳密な食事制限を持っている外国人観光客は多数います。
メニューにピクトグラム(絵文字)を用いて、豚肉不使用やベジタリアン対応などを明記しておくことは、重大なトラブルを防ぐための危機管理として非常に有効です。

QRコードを読み込むモバイルオーダーシステムの導入も効果的な解決策となります。

2. キャッシュレス決済の完全対応(現金のみは機会損失)

日本では依然として現金が決済手段として主流ですが、キャッシュレス決済が主流の国もあります。
「Cash Only(現金のみ)」のステッカーは、来店意欲を削ぐ大きな要因となります。

クレジットカード(Visa、Mastercard)はもちろんのこと、中華圏の顧客を逃さないためにAlipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)といったQRコード決済にも対応した「マルチ決済端末」の導入も検討に値します。

会計時の通貨に関するコミュニケーションコストも大幅に削減できます。

3. 無料Wi-Fiの安定した提供(自発的な拡散を促す)

自ら情報を検索しながら(発信しながら)旅をするFIT層にとって、スマートフォンの通信環境は死活問題です。
「Free Wi-Fi」がある店舗は、それだけで選ばれる理由になります。

店内に安定した無料Wi-Fiを提供することで、滞在時間が延びる(=追加注文が増える)だけでなく、「食事の様子をその場でリアルタイムにSNSへ投稿してもらうこと」が可能になります。
彼らのローカルな食体験がフォロワーに向けて無料で拡散され、それが次の旅行者を呼ぶ最強の口コミサイクルを生み出します。

第4章:資金面のハードルに「自治体の補助金」

多言語メニューの作成、キャッシュレス端末の導入、Wi-Fi環境の整備には初期費用がかかります。
中小規模の個人店にとっては負担が大きいものです。
この場合、国や自治体が提供している「補助金・助成金」を検討しましょう。

例えば、東京都が実施している「インバウンド対応力強化支援事業補助金」では、多言語対応(メニュー翻訳やウェブサイト制作)、無料Wi-Fiルーターの設置、キャッシュレス決済端末の導入経費などに対して、最大300万円の補助を受けることができます。

資金力が潤沢ではない小さなお店であっても、こうした公的な支援制度を賢く利用し、持ち出し(自己負担)を最小限に抑えながら、強力な集客・接客基盤を構築することは可能です。

目の前の課題をチャンスに変える「戦略的」なインバウンド需要の取り込み

インフレが定着する中、適正な価格転嫁(値上げ)を行わなければ、いずれキャッシュフローが行き詰まります。
しかし実質賃金が伸び悩む中で、値上げ疲れによる消費者心理の冷え込みが、居酒屋の倒産件数という数字に、明らかな結果として表れています。

コスト高の下、資本力を背景にしたM&Aや効率化を武器にシェアを取りに行く大手チェーンと、容易に値上げに踏み切れず苦戦する個店の二極化が鮮明となっています。
こうした「ジリ貧」の状況から抜け出すためには、やはりインバウンド需要の戦略的な取り込みがカギとなりそうです。

「言葉が通じないから」と背を向けず、自分のお店でできることから始めてみましょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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