板前FP雑記帳

板前として「働くFP」からの、普通の暮らしを守るためのいくつかのヒント。

【2026年改正】「医療費」負担増へ。「家計破綻」から暮らしを守る保険戦略。

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2026年の高額療養費制度の見直し。
前回の記事で解説したように、「年間の上限額」が新設されたことで長期間に渡る治療費の負担は軽減されたものの、「月の上限額」は引き上げられ、短期間の医療費負担は増えることになりました。

この問題を板前として働く「労働者」の視点から、そして「FP」の視点から読み解くと、対処すべきなのは医療費の負担増だけではないことが見えてきます。

私たちが対処しなければならないのは、「医療費」そのものではなく「家計破綻」です。

それはつまり、負担増と収入減のダブルパンチ、そして固定費の支払いが続くことによるキャッシュフローのクラッシュにこそ備えが必要なのだということです。
​今回の記事では「働くFP」として、「働けない」リスクから暮らしをどう守るのか、家計防衛の観点からお話します。

​【この記事の結論(読むメリット)】

  • ​家計を守るカギ:「医療費の補填」から「流動性の確保」へ
  • ​「改正による負担増」と「入院日数が減る現代」:医療保険の選び方
  • ​現役世代を守るための備え:精神疾患(うつ病など)もカバーする「在宅」対応型の就業不能保険

1:2026年、怖いのは「医療費そのもの」より「生活費のショート」

収入別「負担増」早見表と、働けなくなった時の「固定費」負担の重さ

病気やけがで長期療養が必要になった場合、家計には次にあげる3つの圧力が同時にかかることになります。

  1. 医療費の増加(支出↑):自己負担限度額内の医療費+食事代や差額ベッド代などの健康保険の適用外の費用+日用品などの雑費や通院・お見舞いの交通費など。
  2. 固定費(支出→):住宅ローン、教育費、水道光熱費など。
  3. 収入の減少(収入↓):会社員であれば傷病手当金が出るが、給与の2/3程度。自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には、基本的に傷病手当金制度そのものがない。

では、具体的にどれくらい負担が増えるのでしょうか?まずはご自身の年収と照らし合わせて、現実の数字を確認してみてください。




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高額療養費制度の見直し案
月の自己負担上限(円)
現行 26年8月~ 27年8月~
年収
約1650万円以上 252,600 270,300 342,000
1410万~1650万円 303,000
1160万~1410万円 270,300
1040万~1160万円 167,400 179,100 209,400
950万~1040万円 194,400
770万~950万円 179,100
650万~770万円 80,100 85,800 110,400
510万~650万円 98,100
370万~510万円 85,800
260万~370万円 57,600 61,500 69,600
200万~260万円 65,400
200万円未満 61,500


(注)年収370万円以上の区分は、かかった医療費に応じて計算した額と表中の額の合計が上限になる場合があります。


出典:厚生労働省 社会保障審議会(医療保険部会)資料を基に筆者作成

これを「飲食店」に例えてみます。
設備に大きな問題が発生し、当面の間お店を閉めるとします。
お店を閉めているので、当然のことながら、売上(収入)はありません。

魚や野菜などの食材費(変動費)は抑えることができても、大家さんは「家賃は払わなくていいよ」とは言ってくれません。
お店の家賃(固定費)は、お店を閉めている状態でも変わらず発生するのです。
設備の修理代(治療費)は保険で出たとしても、手元の運転資金(生活費)がショートしてしまえば、結局お店は潰れてしまいます。

もしあなたが会社員であったとしても、あるいは自営業者であったとしても、働けなくなり収入が減った時、住宅ローンなどは基本的に免除されることはありません。
生活のため、生きるための支払いは、ボディーブローのように私たちの「家計のキャッシュフロー」をじわじわと圧迫していくのです。

長期療養時の家計にかかる3つの圧力の図解。家計(豚の貯金箱)に対し、上から「医療費(支出増)」、横から「固定費(住宅ローン、生活費)」、下から「収入減(休職、ボーナスカット)」という3つの負荷がかかり、キャッシュフローが危険水域にある様子。
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傷病手当金の限界:ボーナス・残業代カットで生活水準の維持は困難

社会保険に加入している会社員の場合、業務外のけがや病気で働けなくなった場合には傷病手当金が支給されます。
支給額は給与のおよそ2/3ほどですが、気を付けなければならないのは、ここにボーナスは含まれないということ。
つまり実際の収入減の幅は1/3よりも、もっと大きく落ち込む可能性があるということです。

加えて、最近ではがんや生活習慣病でも「働きながら治す」人が増えています。
例えば抗がん剤治療などで通院治療が続いた場合、フルタイムで働くことが難しくなり、残業手当などの手当てが消滅してしまう恐れがあります。
そのようなケースでは、公的な傷病手当金だけで生活水準を維持していくことは困難になると考えられます。

こうした点を踏まえて、改めて民間の医療保険に求められる役割を再定義していきたいと思います。

入院日数が減る時代:医療保険選びのポイントは「入院日額」から「一時金」へ

冒頭で触れたように、高額療養費制度の見直し案では、長期療養の負担を軽減するための「年間の自己負担限度額」が新設される一方で、月の自己負担額は収入に応じて引き上げられることが決まっています。

近年、入院日数は短期化の傾向になっているところへ月々の自己負担額が増えるとなると、短期間のキャッシュアウトのインパクトが大きくなります。
年間の上限額ができたことで、医療費で破産することはなくなったとしても、手元の現金が枯渇して生活が回らなくなるというリスクは残ります。

こうした点を考えると、医療保険においては入院日数に依存しないまとまった一時金が出るタイプの重要性が増していくでしょう。
日帰り入院でも受け取れる入院一時金や、「診断されたら100万円」といったガンや三大疾病特約の一時金で当面の流動性を確保することは、家計を守るという点においても、あるいは支払った保険料に対する受給効率(リターン)という点においても有効だと言えます。

短期間の支出増には医療保険の一時金で備えるとして、それでは長期にわたる「収入減」に対してはどのように備えるべきでしょうか?
療養が長期にわたる場合、公的保障だけで生活水準を維持することは難しく、そうした金銭的なストレスから心身を害し復帰が遅くなるケースもあります。

働けなくなった時の備えが、これからはさらに重要になっていきます。
そうしたリスクから現役世代を守るための就業不能保険を選ぶポイントについて、続けて見ていきたいと思います。

2:現役世代をまもる就業不能保険:「心の病(うつ病など)」「在宅」がカギ

就業不能保険は、死亡保険や医療保険と違い、商品ごとの「支払われる条件」に大きな違いがある保険です。
保険料だけで選ぶと、いざという時に「一円も出ない」という事態にもなりかねません。
「生きていく」ための大切な保険選び、おさえるべきチェックポイントは次の3つ。

①「精神疾患(うつ病など)」が支払対象外の商品は避ける(最重要!)

全国健康保険協会の最新のデータ(2024年度・令和6年度の給付状況報告)によれば、病気やケガで仕事を休み、傷病手当金を受け取った原因の第1位はうつ病などの精神疾患です。

令和6年度報告における傷病手当金支給件数の内訳を示す円グラフ。精神及び行動の障害が39%で最も多く、次いでがん(新生物)が14%、筋骨格系疾患が8%、循環器系疾患が7%、その他が32%となっている。
©板前FP雑記帳 「働けなくなる原因となる病気やケガの構成比」全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査」https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat740/sb7200/sbb7206/20251002/をもとに筆者作成

このデータをさらに読み込んでいくと、働き盛りの若い世代ほど精神疾患の割合が高い(20代〜30代: 支給原因の50%/40代:支給原因の40%以上)こともわかります。
住宅ローンや教育費などの負担が重い「現役世代」にとって、最大のリスクは「心の病」であるのかもしれません。
以下のチェックポイントを抑えていきましょう。

  1. 精神疾患が支払い対象外(全額免責)となっていないか?・・・一部の古いタイプや格安の就業不能保険では、精神疾患が全額免責(対象外)となっているものがあります。
  2. 「入院」が支払い条件となっていないか?・・・精神疾患は、入院せずに自宅療養(通院)のみで休職するケースが大半です。
  3. 保証期間は十分か?・・・精神疾患は平均的な受給期間が他の病気より長い傾向にあります(平均200日以上など)。

②「在宅療養」が対象となっているか

医療の進化により、がん治療なども「入院」から「通院(在宅)」へシフトしています。

「がん(悪性新生物)の推計患者数の推移」を示す折れ線グラフ(1996年~2020年)。入院患者数(青線)は300台前半で横ばいに推移しているのに対し、外来患者数(オレンジ線)は1996年の約200から右肩上がりに増加し、2008年頃に入院数を逆転、2020年には約800まで急増している。
©板前FP雑記帳 出典:厚生労働省「患者調査」(令和2年調査ほか)より筆者作成 参考リンク: 令和2年(2020)患者調査の概況|厚生労働省

「入院している期間だけ」という古いタイプの保険では、現代の就業不能リスクに対応できません。
以下の点をおさえておきましょう。

  1. 「医師の指示による在宅療養」が支払い要件に含まれているか。
  2. 約款上の「就業不能」の定義が、「入院またはそれに準ずる在宅療養」となっているか。

この「入院から在宅へ」という医療の変化への対応を、飲食店の現場に置き換えて考えてみましょう。

以前のコロナ禍のような非常事態になった時、私たち飲食店は「それまでと同じ」商売をしていてはお店を維持できませんでした。
夜の居酒屋であれば「ランチ」を始めてみたり、あるいは「テイクアウト」に力を入れてみたり・・・。
社会の状況に合わせて「生き延びる為」には、商売の形を変える試みも時には必要です。

「生きるため」の保険の形も、社会や医療の進歩に合わせて、変えていく必要があるのです。

③「免責期間(待ち期間)」の設定戦略

会社員か自営業かによって、選ぶべき受け取り開始期間が異なるケースがあります。

会社員の場合

健康保険から傷病手当金が支給される期間の保障を薄くする(ハーフタイプ)か、支払い開始を遅らせる(60日免責など)設定にすることで保険料を抑えることができます。

自営業・フリーランスの場合

自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には傷病手当金制度がありません。
働けなくなった瞬間から収入が途絶えてしまう可能性を考え、免責期間が短いタイプを選択し、できる限り早く給付が始まるようにする必要があります。

【補足】見落としがちな「復帰支援一時金」

毎月の給付金(月額10万円など)も大切ですが、最近のトレンドとして注目すべきは「復帰支援一時金」「生存給付金」の有無です。

  1. 病気が治りかけて職場復帰する際、すぐにフルタイムで働けるとは限りません。「時短勤務」で給料が下がったり、新しい環境への適応でストレスがかかったりします。
  2. 就業不能状態から回復したタイミング(または一定期間経過後)に、まとまった一時金が出る特約があると、スムーズな社会復帰の助けになります。

まとめ:2026年の変化に対応し、「生きるため」の保険選びを

さて、ここまでの話を、私の本業である「板前」の視点で少し違った角度からまとめてみましょう。

酢締めは鯖を美味しく食べることができる昔ながらの調理法ですが、そもそもは保存を目的としたものです。
これまで鯖を扱ううえでのリスクは、「足のはやさ(鮮度が落ちる速さ)」でした。
しかし低温(チルド)での物流技術が発達し、食材が鮮度を保ったまま厨房や食卓に届くようになった現代では、私たちは新たなリスクに直面することになります。アニサキスです。

アニサキスを気にせずにしめ鯖を楽しむには、新鮮な鯖をわざわざ冷凍させる必要があります。
なんだか矛盾しているように見えますが、リスクの種類が変わったのなら板前もこだわりや常識を変えなければ、お客様の安全は守れません。
これは保険に関しても同様です。

©板前FP雑記帳

急激な少子高齢化や医療技術の進歩によって、私たちを取り巻くリスクは変化しています。
「昔ながら」の医療保険に入っているだけでは、現代の長生きリスクや働けないリスクには対応できないかもしれません。

私たちもまた、社会や時代の変化にあわせて、「生きていくため」の保険選びを見直していく必要があるのです。

このブログが、少しでもその助けになれば幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

https://itamaefp.com/entry/high-cost-medical-expense-2026
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