お客様が自身のスマホを使用して注文・決済を行うモバイルオーダー、大手チェーンだけでなく家族経営の焼き鳥屋さんなど個人店でも見かけるようになり、ここ数年で急速に浸透してきた感があります。

「非接触」が求められたコロナ禍、そして飲食業界の人手不足を背景に導入が進むモバイルオーダーですが、2月2日付の日経電子版および日経MJに興味深い記事がありました。
外食のスマホ注文、ここがイヤ 充電・通信量食われる…「不満」3割 - 日本経済新聞
注文の際に店員を呼び出す必要のない、「ノー店員注文」には、店舗に据置されたタブレット端末を使用するものと、お客様が自身のスマホでQRコードを読み込んで注文するもの、2つのタイプに大きく分かれます。
日経MJが1000人ほどを対象にしたアンケート調査によると
- タブレット注文に満足していると答えた人は60.4%、不満があると答えた人は11%
- スマホ注文に満足していると答えた人は36.5%、不満と答えた人は29.7%
スマホを利用したモバイルオーダーは、満足していると答えた人はタブレット注文にくらべて20ポイント以上少なく、逆に不満があると答えた人は3倍近くにまで達しています。
「通信料、バッテリーが気になる」「QRコードを読み込むのが面倒」というのが、不満の主な理由のようです。
1:「タブレット導入」は費用面が大きなネックに
こうした消費者からの不満の声がありながらも、スマホ注文を取り入れるお店は急速に増えています。
飲食店がスマホ注文を取り入れようとする場合、各テーブル用の「QRコード」、「キッチンプリンターやレジのPOSとの連携」や「Wi-Fi」など、最低限のハードウェアと通信環境さえ整えば導入が可能になります。
一方でタブレット注文を導入する場合には、各テーブルごとのタブレット端末と電源を引くための配線工事、さらには複数のタブレットとポスシステムを支えるための強固なWi-Fi環境を整備する必要も出てきます。
タブレットの購入やポスシステムの導入にあたっては「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)」(デジタル化・AI導入補助金2026)などを利用して、経済的な負担を軽減することもできます。
しかしながら、初期費用は軽減できたとしても、「システム使用料」や「保守・サポート費用」などの維持費が大きなネックとなっています。
お店の規模やベンダー(システム提供会社)にもよりますが、月数万円程度の費用がかかるようです。
さらにタブレット端末が故障したり経年劣化で寿命が尽きた場合には買い替えのための費用、強固なWi-Fi環境を維持するための回線・保守費用も必要になります。
こうしてみるとタブレット注文の導入は、中小企業や個人店にとって、かなりハードルが高いということがわかります。
2:ユーザーの満足度は低いスマホ注文、中には成功例も
スマホ注文で多いものが、「QRコードを読み取るとLINEと連携し、注文・決済ができる」というもの。
注文をする際に店側のLINEアカウントと友達登録を促す仕組みです。
店側としては独自のアプリを開発せずともモバイルオーダーシステムを導入することができますし、LINEを通して顧客情報を収集してデータ分析や販促につなげることが可能に。
消費者としても使い慣れたLINEを利用することで、新たなアプリをダウンロードすることなく、店員を呼ばずに注文できるというメリットがあります。
しかしその一方で、「注文をするために利用したのに、その後も(望んでいない)メッセージやクーポンが頻繁に届く」ことを不快に感じる消費者の声があることも事実です。
決して高くない利用者の満足度、それでも人手不足に対応し業務を効率化させていくために、費用やシステム面の「ハードルの低さ」からスマホ注文を導入するお店が多いというのが現状のようです。
メリット・デメリットが共存するジレンマを抱えながら飲食業界に広がるスマホ注文ですが、先ほどの日経MJの記事に大手ファミリーレストランチェーン「サイゼリヤ」の成功例が紹介されているので、一部を引用します。
スマホ注文で例外的に多くの支持を集めたチェーン店が、サイゼリヤだ。24年3月から国内で本格的にスマホ注文の導入を始め、25年12月までに全店で導入を終えた。食事以外の待ち時間を減らすことに目的を絞り、自社独自のシンプルなつくりとした。「世間にあるアプリは基本的にリッチな作り。クーポンやログのようなマーケティング要素は優先度が低かった」(坪井哲也執行役員)
自分も近所のサイゼリヤで「サイゼ飲み」をちょくちょくしますが、確かにサイゼのスマホ注文を利用して「面倒」とか「ウザい」という思いをしたことはありません。
一般的なスマホ注文だと、「まず頼みたい料理のカテゴリーを選んで、そこから料理を探して・・・」というように、操作に慣れていないと面倒に感じることもあるかもしれません。
来店後に送られてくるクーポンやお得情報のLINEも、あまりにも頻繁だと「ウザい」もの。
サイゼリヤのスマホ注文は、テーブルごとに置かれているメニュー表に、料理の写真と注文番号が載っていて、スマホで番号を打ち込むと料理名が画面に出てきて個数を打ち込み注文、という流れ。
コロナ禍以降のサイゼリヤは「メニュー表を見て、頼みたい料理の番号を紙で書いて店員さんに渡す」というシステムを取り入れていて、今回取り上げるスマホ注文に関しては「紙とペンが、スマホに置き換わっただけ」という感じがします。
料理の写真が見たければメニュー表を見ればいいわけで、スマホ注文に写真やクーポンなどのないシンプルな作りのシステムおかげで、電波状況が悪くてもサクサクと操作ができてストレスは感じません。
またサイゼリヤの場合、多くの店舗でフリーWi-Fiを準備している点も大きいのではないでしょうか。

しかしこれができるというのも、「サイゼリヤ」というレストランチェーンの規模感と、これまでの営業から得てきた知見の積み重ねがあるからこそ、とも思います。
「すべての料理に写真がついたメニュー表」を準備すること自体が個人店にはハードルが高いものですし、「その日のおすすめ」など、仕入れ状況でメニューが変わることも頻繁にあります。
中小規模の飲食店では、「グランドメニューの変更」などはドタバタすることが多いもの。
メニューが現場に降りてくるのが前日、何なら当日になってもレシピなどの具体的な内容がわからないなんてこともザラにありますから・・・。
その他記事中には「IT企業勤務の常連さんがGemini(Google製のAI)を利用して作ってくれた”自前”のスマホ注文システム」を導入した個人店のケースなどが紹介されています。
話題としては面白いですしAIの可能性を感じさせるものの、ケースとしてはあまりに属人的(今後のアップデートやメンテナンスもこの「常連さん」に頼ることになるんでしょうか?)で、一般的な飲食店が参考にできるものではないようです。
モバイルオーダーの導入を「お店」「お客様」双方の実りとするためには?
少子高齢化が進む日本の社会において、どの業界も人手不足という課題を抱えています。
労働集約型産業、つまり仕込みから料理の提供、皿洗いにお店の掃除まで業務の大半を「人手」に頼らざるを得ない飲食業界の悩みは深刻であり、IT導入による業務改善は避けては通れません。
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しかしながら消費者の不満に向き合おうとせず、「お店の都合」だけで押し付けようとすれば手痛いしっぺ返しを食らう恐れもあります。
最後にモバイルオーダーの導入を、お店とお客様双方にとって実りあるものにするための課題について整理して、この記事のまとめとします。
【飲食店側の課題】
- 「遊び」を残すオペレーション… 100%デジタルに頼るのではなく、スマホ操作が苦手なお客様には口頭で注文を受けるなど、接客に「遊び(柔軟性)」を残すこと。
- シズル感の演出… デジタル画面では伝わりにくい「今日のおすすめ」の熱量を、手書きの黒板やスタッフの声かけなど、アナログな接客でどう補うか(クロスセル=『このお刺身には、こちらの辛口の日本酒が合いますよ』とおすすめして単価を上げるような、現場ならではの一言などの工夫)。
- トラブルへの備え… 通信障害でシステムが止まった瞬間に厨房がパニックにならないよう、紙伝票でのアナログな「避難訓練」をしておくこと。
【システム提供側(ベンダー)の課題】
- 過剰な味付けからの脱却…お客様の通信量やバッテリーを奪う「機能のてんこ盛り(重いシステム)」をやめ、注文を通すことに特化した軽い動作を追求すること。
- 厨房の動線への理解… ITの常識ではなく、現場の板前が「どういう順番で伝票を見て調理するか」という厨房の呼吸に合わせたシステム(キッチンプリンターの出力順など)を構築すること。
- 個人店向けプランの拡充… 薄利多売の個人店でも無理なく導入できる、月額負担の少ない軽量プランを用意すること。
【消費者側に求められる目線とアクション】
- 過剰サービスからの卒業…人手不足が深刻になる中、飲食店における全てのサービスを人の手でまかなうことはもはや難しくなったと言えます。「スマホ注文」への順応は、お店の存続を助けるだけでなく、回りまわって外食の価格高騰を抑えることにも繋がります。
- 通信費とギガ数の自己防衛…飲食だけに限らず、さまざまなサービスで注文・決済を自身のスマホで行うケースは今後も増えていくと考えられます。これを機にスマホのプランを見直すなど、社会の変化に自分の通信環境を最適化しておくことも重要です。
- デジタルストレスのコントロール…お店のLINEと連携して注文した後、望まないクーポン通知などが頻繁に届くなら、遠慮なく「通知オフ」や「ブロック」を。便利な機能やお得な情報だけはきっちり活用し、不必要な情報はシャットアウトする。主導権はあくまで「お客様」にあるべきです。
とはいえ、消費者が順応すべきなのはあくまで「時代と自分に合ったシステム」です。
お店やベンダー(システム提供会社)の都合で作られた「重くて使いにくいIT」に、我慢して付き合う義理はありません。
そのような自己満足のシステムを押し付ければ、お客様は何も言わずに離れていくでしょう。
だからこそ、サイゼリヤのように「消費者が自然に順応できるハードルの低さ」を用意することが、お店側・システム提供側の最大の使命になるのではないでしょうか。
立派な調理道具があるだけでは、料理は成立しません。
使いこなす技術も、メンテナンスの知識も必要です。
素材と働く人、そして何より食べてくれるお客様がいるからこそ飲食というサービスが成立する、という当たり前の事実に目を向けることが課題克服の鍵となるようです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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