
料理において、味がピタリと決まる合わせ調味料の割合を「黄金比」と呼びます。
板前として厨房に立つようになって20年ほどになります。
最近ではAI(Geminiさんですね)の力を借りて、感覚ではなくグラム単位の重量で自作のレシピを管理しています。
ベテランから外国人のアルバイトまで、いろんな人が働いているお店ですから、誰が作っても味が「ブレない」基準をもつことの大切さを痛感するようになったからです。
実は、私たちの家計管理にも、このブレない基準となる「黄金比」が存在するのです。
家計管理の「黄金比」とは?支出の理想的なバランス
家計における黄金比とは、支出を「5:3:2」の割合で「必要なもの(生活費)」「欲しいもの(娯楽費)」「貯蓄・投資」に分類するというものです。
これは、アメリカの政治家であるエリザベス・ウォーレン氏が提唱したルールで、日本でも広く知られています。

図のように、月の手取りが30万円であれば、「生活費15万円:娯楽費9万円:貯蓄6万円」という目安になります。
こうした比率がすべての家庭に完璧に当てはまるわけではありませんが、家計の黄金比には家計管理を劇的に楽にする以下のようないくつかの優れた点があります。
- 家計の支出を見直す「物差し」になる:黄金比と自分の家計を比較することで、何にお金を使いすぎているのかが一目でわかります。
- 「強制貯蓄」ができる:収入から「貯蓄・投資」の分を先取りすることで、確実にお金を貯めることができます。
- 管理がわかりやすい:項目が細かく細分化されていないため、家計簿に挫折した人でも管理が容易です。
サバの味噌煮であれ、豚の角煮であれ、「美味しい」と感じる調味料の割合を数値化しておけば、作るたびに味がブレたり、味見を繰り返して迷走することもありません。なにより、他の人にも教えやすい。再現性の高いレシピというのは本当にありがたいものです。
また、割合を数値化しておくことで、「少し甘すぎたかな」といった振り返りも、「仕上げに少し酢を回してみよう」といった微調整も簡単になります。
味の好みに個人差があるように、家計にもその人や家庭ごとの事情や優先順位があります。
しかし、だからといって毎回その場しのぎの目分量や「どんぶり勘定」で良いということにはなりません。
ブレがなく安定した成果(貯蓄や投資による確実な資産形成)を形にするためには、「レシピ」と「段取り」が必要だという点において、料理と家計管理は非常に共通しているのです。
今回の記事では、「貯金ができない人」の行動心理と、それを防ぐための仕組み(レシピ)作りと段取りについて詳しく解説していきます。
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「お金が貯まらない人」の共通点:パーキンソンの第2法則
皆さんは、「パーキンソンの法則」をご存じでしょうか?
英国の歴史・政治学者であるシリル・ノースコート・パーキンソン氏が提唱したもので、ビジネス研修(タスク管理や生産性向上など)では必ずと言っていいほど登場する重要な法則です。
- 第1法則:「仕事の量は、完成のために与えられた時間を全て満たすまで膨張する」
- 第2法則:「支出の額は、収入の額に達するまで膨張する」
ざっくりと分かりやすく言えば、人間というものは「1週間の期限があれば、3日で終わる仕事にも1週間かけてしまう」し、「お金を持っていれば、あるだけ使ってしまう」生き物だ、ということです。
「収入は増えているのに、なぜか貯金ができない」
「家計簿をつけているけれど、何を削れば良いのかわからない」
「気がつけば、いつも給料日前はカツカツ」
家計相談の現場ではよく見かける「あるある」の悩みですが、こうした悩みはまさにパーキンソンの第2法則を体現したものだと言うことができます。
お金が貯まらない家計に共通する問題点を、いくつか洗い出してみましょう。
① 収入アップに合わせて生活水準を上げてしまう
収入が増えると「自由に使えるお金が増えた」という思いが強くなり、ちょっとした贅沢が日常化してしまいがちです。
増えた収入に合わせて生活水準を無意識のうちに上げてしまう現象を、行動経済学でライフスタイル・クリープ(生活水準の忍び寄り)と呼びます。
スーパーで食材を買う時に少し高いものを選ぶようになる。外食の単価が上がる。1つひとつの金額は大したことのないものでも、「チリも積もれば」で、増えたはずの収入をあっという間に食いつぶしてしまうのです。
② 「残った分を貯金しよう」としている
収入が増えると、「余裕ができたから、自然とお金が貯まるはずだ」と錯覚しがちなものです。
しかし、先ほどのパーキンソンの第2法則にある通り、人間は手元にあるお金を「使える上限」と認識してしまいます。
積立投資のように、給料日に自動的に別口座へ資金を移す「先取り貯蓄」を仕組み化していない場合、月末に口座に残高が残っている可能性は極めて低くなります。
③ 安易な「固定費」のグレードアップ
外食などの「変動費」よりも家計に深刻なダメージを残すのが、このパターンです。
収入が増えた段階で、家賃の高い部屋へと引っ越す、高級車へ乗り換える、最新のiPhoneを分割払いで買い、高いキャリアプランを契約してしまうなど……。こうした利便性の追求やステータスの確認作業には、多くの場合で(時には割に合わない)高い固定費の出費が伴います。
一度上げてしまった固定費や生活水準を下げることは心理的にも非常に難しく、貯蓄体質からは大きく遠ざかることになります。
④ 「ご褒美支出」のハードルが下がる
歯ブラシや洗剤を買うための日用品のお金。自分へのご褒美として、人気のパティスリーに並んでケーキを買うためのお金。
人間は無意識のうちに、同じ「お金」であっても、使い道や稼いだ方法によって心理的に色分けをしています。
こうした行為をメンタル・アカウンティング(心の会計)といいます。お金を目的ごとに分けることで家計管理を容易にする一方で、臨時収入を「あぶく銭」として浪費してしまうような非合理的な行動の原因になることもあります。
「給料(ボーナス)が増えたから」と、収入アップを理由にしたご褒美支出が常態化してしまうのもよくあるケースです。
頑張った対価として楽しみを持つことは大切ですが、あらかじめ「ご褒美予算」として家計の中に組み込まれていないどんぶり勘定になってしまうと、ご褒美のはずがキャッシュフローを圧迫する苦痛の原因に変わってしまうのです。
「貯蓄体質」へ改善する処方箋:先取り貯蓄と予算の固定化
ここまで、「お金が貯まらない人」に共通する傾向を4つ挙げてきましたが、ご自分に当てはめてみていかがでしょうか?
ちなみに筆者は、この4つすべてに思い当たるふしがあります。
いつもの晩酌のウィスキー(ジャックダニエル)が気がつけばグレードアップしていたり、よくよく考えてみればあまりメリットのないゴールドカードの年会費を惰性で払い続けていたり……。こうした共通点は、誰もが陥りやすい罠でもあるのです。
この春に新社会人になった人たちは投資や資産形成への関心も高く、私が20代の頃と比べてはるかに高い金融リテラシーを持っていると思われます。しかしそれでも、使えるお金が増えるとついつい「このくらいは大丈夫」と使ってしまうのが人間の心理です。
こうした人間の心理や行動の傾向を、気合や根性で否定して乗り越えるのではなく、理解したうえで「仕組み」を作ることが重要です。
罠に落ちることを回避し、貯蓄体質へ改善するために最も効果的な方法は、「先取り貯蓄の仕組み化」と「予算枠の固定化」なのです。
頭ではわかっていても、これを実際に自分のキャッシュフローに落とし込んで実行に移せる人は多くありません。実行に移すのが難しいならば、自分の意志の力に頼らず、自動で実行される仕組みを作ってしまう方がはるかに合理的です。
この「仕組み化」による、家計改善のための5つのステップを見ていきましょう。
ステップ①:明確な「ゴール」を設定する
何のために家計を改善したいのか、まずはその目的を明確にしましょう。
- 「とりあえず100万円貯めてみたい」
- 「〇〇年までに借金を完済して身軽になりたい」
- 「40歳までに独立して自分の店を持ちたい」
- 「海外留学の資金を貯めたい」
「将来がなんとなく不安だから」といった漠然とした理由よりは、単純に思えるようなものであっても、具体的な目標がある方が行動を促す効果があります。
ステップ②:現状のキャッシュフローを評価し、改善点を洗い出す
まずは、クレジットカードや銀行の引き落とし口座の明細から、直近の家計における支出を全て洗い出してみましょう。
ここで、冒頭で紹介した「黄金比(5:3:2)」が、ご自分の家計のキャッシュフロー(お金の出入り)を評価する強力な物差しとして役立ちます。
全てを黄金比にきっちり当てはめる必要はありません。料理で「ちょっと塩辛いな」「甘みがくどいな」と味見をして調整するように、ご自分の家計を黄金比と比較してみて、突出してはみ出している支出項目があれば、それが最優先で改善するべき課題ということになります。
「お金が貯められない」という悩みがある時点で、自分の家計のどこかに問題があることを認識しているはずです。原因をあぶりだすことで、どのような仕組みを作れば良いのかがはっきりしてきます。
ステップ③:「先取り」する貯蓄額と、各項目の「予算枠」を決める
黄金比によるキャッシュフローの評価をもとに、予算を振り分けていきます。
食費や日用品、外食のような娯楽・趣味のためのお金など、毎月の変動費に上限を設け、収入が上がってもむやみにその枠を広げないように設定します。そのうえで、毎月いくらの資金を貯蓄や投資のために回すのかをきちんと決めましょう。
「自分へのご褒美」のような息抜きのためのお金も、もれなく予算化しておきます。どんぶり勘定ではなく、使えるお金の上限を決め、その枠内なら罪悪感なく使い切ることが、家計管理で息切れしないためのコツでもあります。
ステップ④:口座を「使う」と「貯める」で明確に分離する
パーキンソンの第2法則を思い出してください。給与が振り込まれる口座に、すべてのお金を入れっぱなしにしてはいけません。
以下のように、銀行の口座を目的ごとに分けることが重要です。
- A口座(使う口座):給料が振り込まれ、生活のための固定費や、日々の変動費をやりくりするための口座。
- B口座(貯める・増やす口座):自分で決めた目標や、将来自由に使えるお金を確実に育てるための口座。
ステップ⑤:資金の移動を「完全自動化」する
A口座からB口座への振替を毎月「手作業」で行おうとすれば、多くの場合、途中で挫折します。
「将来の目標よりも、今の自分へのご褒美を優先したい(現在バイアス)」
「来月はきっと貯蓄できるから、今月は使ってもいいや(楽観バイアス)」
行動経済学的に見て、私たちは本来こうした様々な「偏りや先入観(バイアス)」をもった生き物です。そのことを素直に認めましょう。
積立投資(NISAなど)の引き落とし設定や、ネット銀行の定額自動入金サービスなどを利用して、給料が振り込まれるA口座から、将来のためのB口座へ、決めた金額が毎月自動的に引き落とされる仕組み(自動化)を作り上げてください。
まとめ:家計管理も料理と同じ「段取り八割」が成功の鍵
以前のブログでも紹介しましたが、「板前仕事は段取り八割」とよく言われます。
毎朝、市場から魚が届きます。開店前の店内に積みあがった発泡スチロール。しかし扱う食材は魚だけではありません。色々なジャンルの料理を楽しめるのが居酒屋の醍醐味ですから、野菜も肉も、その料理に合わせた下処理をしていくわけです。
食材の仕込み、お店の片づけ、ランチ営業……。マルチタスクといえば聞こえは良いものの、忙しさに任せて考えなしに仕事に手を付けていけば、何も形にならずにあっという間に詰んでしまいます。
そうならないためには、仕事をスムーズに進められる順序や手順を確認し、必要な準備と手配をしておくこと、つまり「段取り」が極めて重要になるのです。
家計管理にも、全く同じことが言えます。
一度「我が家の黄金比」を算出し、自動的に貯蓄に回る「仕組み(仕込み)」を作ってしまえば、あとはどうすれば残りの予算枠内で楽しく生活できるかを考えれば良いだけなのです。
毎日レシートと睨めっこして、気合や我慢を重ねるだけの家計簿では成功しません。これまで貯金しようとしてうまくいかなかったのは、あなたの意志が弱いからではないのです。
食材にそれぞれ特徴があるように、人間の心理や行動の傾向を理解して「仕組み」を作ることが大切です。
「パーキンソンの法則」や数々の「バイアス」といった人間の心理を逆手にとり、自動的に黒字を生み出す体質へと改善していくこと。それが、あなたの豊かなライフプランを実現するための強力な土台になります。
まずは今週末、現状の「味見(家計の洗い出し)」をするところから始めてみませんか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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