
【相談事例】
20代会社員。社会人になったのを機に、新NISAでオルカンの積立を始めた。
積立額は手取りの2割程度。
現金の預貯金はない。
先日、賃貸マンションの更新の際に管理会社から値上げの通知が届いた。
またこのところの物価高もあり、日々の生活に息苦しさを感じるようになってきた。
しかし、投資をやめてしまうのは将来が不安。どうすれば良いだろうか?
このところ「NISA貧乏」という造語が話題になっていますね。
ご相談を寄せていただいたような20代、あるいは30代の若い世代が、無理な積立金額を設定することで、現在の生活が圧迫されてしまう状態を指します。
この相談にあるような、「手取りの2割」という積立金額は、決して無理な金額というわけではありません。
むしろ、世間一般で言われているセオリー通りとも言えます。
しかし、すべての人がセオリーに縛られる必要もありません。
当たり前のことですが、人の生活はそれぞれだからです。
職業や年収、実家暮らしか一人暮らしか、1人暮らしでも職場の寮や補助のある人・ない人。
そもそもの初期設定が違うのですから、セオリーはあくまで目安程度に考えておいて問題ありません。
ましてや昨今の物価高、さらには新たに家賃も値上がりの通知が届いたとのこと。
相談内容を見る限り当面に大きな出費の予定はないようですが、ケガや病気、家電の故障などの「もしも」の出費には、あらかじめ予定が組まれているわけではありません。
日々の生活に感じている「息苦しさ」というのは、家計や投資戦略を見直す必要があるということを、自ら認識していることの表れではないでしょうか。
時間を味方につける投資戦略:投資3年目、成果を急ぐことはかえって非効率
「新NISAで投資を始めた」ということは、この20代会社員の方の投資歴はおそらく2年強。
相談内容に年収等の情報はありませんが、
- 毎月の手取りが20万円
- 積立額が4万円程度
と仮定した場合、投資元本はおよそ90万円程度ではないかと推測されます。
運用益による変動よりも、毎月の積立による入金が資産全体に与える影響の方が圧倒的に大きい時期です。
預貯金はない、つまりいざという時にすぐに現金として引き出せる(流動性が高い)備えがない、という点が気になります。
もし今、突然のけがや病気など、まとまったお金が必要な状況になった場合、これまで積み立てた資産を取り崩して対応することになると思われます。
新NISAでせっかく非課税で運用しているのに、「もしも」に対応するために売却してしまうと、複利効果が途切れてしまいます。
さらにそれが「○○ショック」のような、市場が暴落しているタイミングだったら、どうでしょうか?
生活を切り詰めて、「息苦しさ」に耐えながら積み立ててきた資産に対して、自ら損失を確定させなければならないのです。
「将来の不安を解消するために積み立て投資をする」という戦略から見ても、非常に効率の悪い投資行動になってしまっています。
まじめな人ほど、投資による成果を急いで「NISA貧乏」といわれる状況になりがちです。
例えば、鰻や焼き鳥のたれ、あるいはおでんの出し。
名店の味は、具材や調味料にお金をかけても、それだけでは成立しません。
地道な日々の積み重ねが、老舗としての歴史を作っているのではないでしょうか。
相談者様はまだ20代。
「時間」は、資産を築く富の源泉です。
成果をあせって転んだり息切れするのではなく、どうすれば長く投資を続けられるのかに焦点を当てましょう。
資産を売らない「ノーセル・リバランス」という選択:「リスク資産」と「安全資産」の比率を調整
現在の相談者様の資産は、全体の中で株式投資信託(オルカン)のみが突出して高い、というよりは全体の比率のほぼすべてを占めている状況です。
インフレに対するリスクヘッジとして株式ファンドの積み立ては非常に有効な選択ではありますが、不測の事態に対応するために「現金」が必要になることもあります。
現金を得るために資産を売らず(ノーセル)に済むように、毎月の積立額を調整(リバランス)することを提案します。
オルカンのような株式ファンドなどのリスク資産の比率を落とし、現金という安全資産の比率を上げます。
この場合の安全資産はもしもの時の備えとなるものなので、すぐに引き出せることが大切です。
このブログでも度々触れていますが、「生活防衛資金」は生活費の3ヶ月分が一つの目安です。
目標金額を45万円に設定した場合、
- 新NISAの積立額を月1万円に落とす
- 残りの3万円を現金で積み立てる
このペースなら、必要な期間は1年3ヶ月。
ボーナスを活用すれば、もっと短期間で済みます。
新NISAの積み立てのペースを落としてしまうと、遠回りに感じるかもしれません。
しかし、必要な行程であると断言できます。
「秘伝のタレ」も、ただ調味料を継ぎ足していけばよいというものではありません。
毎日の火入れと急冷による殺菌、そして濾すことによる不純物の除去を徹底する必要があるのです。
こうした衛生管理が老舗の味と商いを守るように、「生活防衛資金」はあなたの生活、そしてこれまで積み立てた資産を不本意な形で売らなくて済むように守ってくれる、大切な仕込みなのです。
アセットアロケーション:ライフプランに合わせた資産配分の黄金比
生活防衛資金が準備できたら、再び新NISAの積立のペースを上げるのも良いでしょう。
積立の全てをリスク資産で運用することに不安を感じている場合には、
- 半分を新NISAの積立投資
- 半分を安全資産(預貯金など)
という配分にする、というのも一つの考えです。
インフレ率を2%と仮定した場合、積立の半分にあたる新NISAのファンドを年4%で運用することができれば、全体の運用率は2%となってインフレに負けない資産作りが可能になります。
「生活防衛資金」という備えの現金を十分に用意できていれば、安全資産のための予算を預貯金ではなく個人向け国債に振り分けて、「金利のある世界」の恩恵を受ける、という選択肢もあります。
さらには、相談者様はまだ20代です。
余剰資金の全てを新NISAや貯蓄に回すのではなく、自分という「他に代わりのいない人的資本」への投資や、日々の楽しみのために予算を割いても良いのではと思います。
仕事で必要なスキルを磨いたり、資格の勉強、あるいは興味を持ったアクティビティーの体験してみる。
時には何もせず、ただリラックスするためのお金を使っても良いのではないでしょうか。
ただ成果を求めることだけが、人生ではないですから。
このように、人生における目標やその人の資産状況、リスク許容度に合わせて、資産配分のバランスを決めることを「アセットアロケーション」といいます。
セオリーや周囲の流れにとらわれることなく、あなたのライフプランに合わせた黄金比を作っていきましょう。
経営・会計の世界には「ゴーイング・コンサーン」という言葉があります。
これは「企業が将来にわたってその事業を継続していくこと」を前提とする考え方です。
ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)は、個人の人生においても非常に重要な考え方ではないでしょうか。
なぜなら、「自分の人生やキャリアがこれからもずっと続いていく」と捉えることで、目先の短期的な成功や失敗に一喜一憂せず、中長期的な視点で自己投資や健康管理、人間関係の構築ができるようになるからです。
このような視点をもつことは、「NISA貧乏」のような状況に陥ることを回避する助けにもなるはずです。
投資・資産形成はそれ自体が目的ではなく、あなたが自分の人生という暖簾(のれん)を守っていくための手段にすぎません。
毎月の積立投資に「息苦しさ」を感じている、あなた。
リバランスしましょう。
人生は続きます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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