板前FP雑記帳

板前として「働くFP」からの、普通の暮らしを守るためのいくつかのヒント。

【新NISA出口戦略】50代・60代の資産寿命を延ばす「定率・定額」の正解は?

6月のシーズンに梅酒を仕込んだなら、おそらくは飲み頃を迎えているのではないかと思います。
好みもあるかと思いますが、やはり半年を超えると風味とまろやかさが出てきます。
2年、3年と熟成が進むと豊かなコク深さが味わえますが、その分管理は難しくなり、どのように飲み進めていくのかはなかなか悩ましいところ。

梅の実は崩れて濁ったり、種の渋みが出てくるのを防ぐために1年くらいで取り出すのが基本です。
この取り出した梅の実も、そのまま食べたり料理に使ったりといろいろな楽しみ方ができるのも良いですね。

時間をかけて熟成させた梅酒の、時間によって変わる味わいの好みと、果実を味わうささやかな楽しみ・・・。
自家製梅酒の喜びと悩みは、なんだか資産形成のそれに似ています。
飲み頃を迎えた自家製の梅酒、広口のガラス瓶、梅にしわが寄り、琥珀色に色づいたリカー、自然光、背景に大きくぼけたキッチンの風景

2024年の制度改正によって、装いも新たにスタートした新NISA。 「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の併用が可能になり、非課税保有期間の無期限化や年間投資枠の拡大など、投資で資産を築こうとする私たちの背中を押し、足元を支えてくれる非常に心強い制度へと進化しました。

今、書店やネット上には「新NISAの始め方」や「最速で資産を増やす方法」といった情報があふれ、世間の関心の高さがうかがえます。
私が参加している「はてなブログ」のグループを覗いてみても、新NISAを活用して資産形成に励んでいる方や、すでに大きな成果を上げている方など、その取り組みは実に様々です。

銘柄選びや月々の積立額で迷うことはあっても、「さあ、NISAを始めよう」と思い立った人が、入り口でつまずくことは少なくなりました。

それでは、「出口」についてはどうでしょうか?
将来の安心のために資産形成を始めたはずなのに、そのゴールの迎え方――つまり「いつ・どのように資産を使い(売り)、人生を豊かにするか」までを戦略的に描けている人は、実はそれほど多くいません。

まだ20代・30代であれば、これから結婚や住宅購入などのライフイベントが控えていますし、まずは「資産の最大化」が最優先事項でしょう。
しかし、50代・60代となり、実際に「老後」の足音が近づき、その影が大きくなるのをひしひしと感じる世代にとって、資産形成の「出口戦略」は待ったなしの切実なテーマです。

「まとまった資金が必要になるタイミングで、暴落が来たらどうしよう?」
「せっかく貯めた資産を取り崩すのが怖くて、結局使えないまま終わるのではないか?」

投資によって資産を作ろう、生活を守ろうとする時には、そういった不安は常に付きまとうものです。
今回の記事では、FPとしての視点とシミュレーションを交え、そんな漠然とした不安を数字に基づいた「出口戦略」に変える方法を解説します。
ご自身の資産寿命を延ばし、より豊かな人生の果実を味わうためのヒントになれば幸いです。

1:50代・60代のための新NISA戦略

新NISAによるつみたて投資は、若いうちから、できるだけ早く始めたほうが有利と言われています。
長期投資による複利効果を最大限に活かすことができる、というのがその理由の最たるものでしょう。

若いうちはまだ給料もそれほど高くないし、投資のための資金も十分には用意できないかもしれません。
でも「お金はないけど時間だけならある」というのは、実は素晴らしいことなんです。
時間があれば小さな資金をコツコツ育てていくことができますし、たとえ損失を出したとしても、リカバリーして立て直すチャンスもあれば、運用方針を見直したり投資について学びなおす機会もあります。

だからもしこの記事を読んでいる若者がいるのなら、少しの額でもいいからできるだけ早くつみたて投資を始めてみることをお勧めします。

「ほら、やっぱりNISAは若いうちから時間をかけて複利効果を得るためのもの」
「50代・60代になってからでは意味がない」

ここまで読んでそのように思われてしまったのであれば、そこには誤解があります。
まず、NISAの非課税メリットは年齢に関係なく恩恵を受けることができるということ、そしてそもそも50代・60代は人生のゴールではありません。

意味がないのではなく、戦略が変わるのです。
20代の新NISA戦略が「資産の最大化」のためならば、50代・60代は「資産寿命を長持ちさせる」ための戦略を練るべきなのです。
そのために必要な3つの視点についてみていきましょう。

「長期投資」の再定義

長期投資の「長期」がどのくらいかについて明確な定義はありません。
一般的には10年、あるいは15年から20年以上を指すと考えられています。
例えば期間を15年として、50歳からなら65歳、60歳からでも75歳が出口戦略のスタートとなります。
その年代であればまだまだ現役で資産を活用している人も多いでしょう。
さらに人生100年時代と言われる現代では、長生きリスクに備えるためにも50代・60代でも資産形成をしていくべきだと言えます。

またすでに述べたように、NISAの運用益が非課税になるという節税メリットは年齢に関係なく、いつから始めてもその恩恵を受けることができます。
そして新NISAでは非課税保有期間が無制限になりました。
60歳で投資した資金を75歳、80歳になるまで期限を気にすることなく運用することができて、必要な時に引き出す(売却する)ことができるのです。

最大のリスクは「インフレ」による現金の目減り

かつての長いデフレ時代を経験してきた50代、60代の方には「現金・預貯金がいちばん安心」という感覚があるかもしれません。
ですがインフレが進む現代において、現金で保有していれば資産の価値も守られる、という認識は改める必要があります。

あなたの資産を現金や預貯金で保有していれば、その金額は減ることはありません。
ですがその現金の価値が目減りしていく可能性があるのです。
仮にインフレ率が年2%で推移した場合、100万円の現金の価値は10年後には約82万円、20年後には約67万円にまで目減りしていきます。
「元本割れが心配」「暴落が怖い」という理由で投資や資産形成に背を向けることは、インフレによって資産の価値が削り取られていくのを無抵抗に受け入れていることと変わりはありません。

50代・60代の資産形成に求められるのは、「資産の購買価値を守る」という守りの投資戦略なのです。

「出口戦略」の2つのフェーズ

50代・60代が新NISAを活用するにあたり、ご自身が以下のどちらのフェーズにいるのかを確認しておきましょう。

  • 資産形成期:50代~60代前半、現役】・・・まだ給与収入があり、直近で資産を取り崩す必要がない層です。ライフイベントがひと段落して家計に余裕ができる層でもあります。資産形成の「ラストスパート」として新NISAのメリットを最大限に活かしていきましょう。
  • 資産取り崩し期:60代後半、リタイア後】年金が収入のメインとなり、足りない分を資産から補填していく層です。少しずつ時間をかけて育ててきた新NISAの果実を、できる限り長く維持できるよう計画的に収穫をしていくフェーズに入ります。

できる限り資産を長持ちさせるには、取り崩しのやり方が重要です。
ここを間違えると、せっかく育てた新NISAという果実はあっという間に枯れ落ちてしまいます。
具体的な数字とグラフで検証していきましょう。

2:「定額取り崩し」「定率取り崩し」シミュレーション検証

リタイアして年金生活が始まると、一般的には年収が減ることがほとんどです。
それを補うために新NISAで作ってきた資産を取り崩すわけですが、その取り崩す方法には「定額取り崩し」「定率取り崩し」があります。

毎月決まった額を取り崩す「定額取り崩し」は、家計管理も容易でわかりやすい取り崩し方です。
ですが株式などの金融資産の価格が暴落した場合でも同じ金額を売却するため、資産の減りが早まる可能性があります。

一方の「定率取り崩し」は資産残高から決まった「~%ずつ」というように、一定の割合の金額を取り崩していく方法です。
資産残高の減少とともに年々受け取れる金額が減っていくので家計管理が難しく、生活費も見直していく必要がありますが、資産寿命はより長くすることができます。

【老後資金1,800万円(運用利率3.0%)の場合】

老後の生活資金として1,800万円を準備できたとします。
これを年率3%、非課税で運用しながら取り崩していくと仮定してシミュレーションをしてみましょう。

  1. 毎月9万円ずつ定額で取り崩していく
  2. 毎月4%ずつ定率で取り崩していく

開始2年目に、保有する資産額が約-15%下落する暴落が発生するというシナリオを加えます。

暴落相場における資産寿命の比較グラフ。赤線は急速に下降しゼロになり、緑線は横ばいで維持されている
©板前FP雑記帳

グラフの赤い線が「定額取り崩し(毎月9万円ずつ)」、緑の線が「定率取り崩し(毎月4%ずつ)」を表しています。

2年目に起きた暴落で一気に資産が減る動きは共通していますが、暴落後のそれぞれの資産が減るペースは明らかに違っています。

グラフの赤い線、つまり定額で取り崩した場合、資産残高が坂を転げ落ちるように減っていくのが分かると思います。
そして開始から14年目あたり、つまり80歳を前にして資産が底をついてしまっています。
なぜこのような動きになるのかと言えば、その理由は暴落時の資産の食いつぶしにあります。
例えば株式などの金融資産の価格が急落している状況で、「毎月9万円」という固定費を捻出するためには、株価が高いときよりもより多くの口数を売却しなければなりません。

一方でグラフの緑の線、資産を定率4%で取り崩していった場合は、資産残高の減るペースは非常に緩やかです。
運用利率の3%よりも取り崩す割合(4%)のほうが大きいので、減っていくことには変わりはないのですが、決してゼロになることはなく25年経過の時点でも1,000万円近い資産が残っています。
暴落して資産価格が下がった時に売却する口数を抑えることで、老後資金を細く長く維持することができるのです。

3:新NISAの出口戦略における実践テクニック

家計管理はわかりやすいけれど資産の減りが早い定額取り崩しと、資産は長持ちするけど家計管理が大変な定率取り崩し。
どちらを選ぶべきなのか悩むところですが、ある程度まとまった資金が用意できた場合は、この2つを組み合わせる「ハイブリッド型」がおすすめです。

①ハイブリッド取り崩し(WantsとNeeds)

老後資金はできる限り長持ちさせられると安心ですが、年金収入での不足部分を新NISAの資産で穴埋めするわけなので、受取額(取り崩し額)が毎月変わってしまうようでは大変です。
そこで「生活に必要なお金(Needs)」と「人生を楽しむためのお金(Wants)」と目的ごとに資産とその取り崩し方を分けるのが、このハイブリッド型です。

  • Needs(食費・光熱費・住居費など)・・・生活していくうえで必要なお金を、年金と「定額取り崩し」分で確保します。この部分に金額を固定できれば日々の暮らしも安心ですし、家計管理も楽になります。
  • Wants(旅行・外食・趣味など)・・・この部分は「定率取り崩し」分で賄います。株価など資産価格が上昇した場合には少し奮発しても良いですし、資産価格が下がって取り崩し額が減った場合には、自分の楽しみのために何か月分かを我慢して貯めておくというのも賢いお金の向き合い方です。

②成長投資枠で高配当株式・ETFを運用する

老後資金のための資産を新NISAの成長投資枠に複数年をかけて計画的にスイッチして高配当株・ETF*1に投資、元本は売却せずに配当だけを受け取る。
成長投資枠の上限額が1,200万円なので、この枠を目一杯使って配当利率3%で運用できれば年間36万円(毎月3万円)の配当金が手に入ります。

残りはそのままインデックス投信、またはその他の流動性の高い資産で運用していれば、いざという時の予備費にもできます。

①と②のいずれを実践する場合でも、課税対象である「特定口座」に資産がある場合にはそちらを優先的に取り崩していくことも重要です。
約20%の税金がかかる特定口座の資産を優先的に取り崩し、非課税で運用できる新NISAの資産をできるだけ長く温存することは、収入が減って不確かな部分が多い老後の資金計画を立てるうえでとても重要です。

まとめ:投資は「出口戦略」でも時間を味方に

投資によって安定的に資産を形成するためには、時間を味方につける必要があります。
ドルコスト平均法によって高値掴みのリスクを回避する、複利効果を最大限に利用する・・・、リスクから資産を守り育てていくためには長期投資が基本です。

これは資産形成の「出口戦略」においても同様です。
積み立てた資産を一度に売却する場合、相場の悪い時期に当たってしまうと大きな損失を被ることになります。

  • 少しずつ取り崩して資産を長持ちさせるためのルールを決める(定額取り崩しor定率取り崩し
  • 目的ごとに資産や取り崩しのルールを分ける(ハイブリッド取り崩し
  • 元本を売却せずに配当を受け取る仕組みづくりと予備費の確保(成長投資枠の活用

自家製梅酒にも家庭ごとの違いやこだわりがあるように、資産形成の正解もその人のライフプランによって実に様々です。

いずれにせよ、「出口戦略」においても新NISAのメリットを最大限に活用する必要があります。
それができれば、飲み頃の梅酒を味わうように、あなたが育てた資産はあなたの老後の生活をきっと豊かにしてくれるはずです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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*1:米国ETFを想定する場合、配当金(分配金)には現地課税がかかる場合があります。また国内ETFでも「分配金が出るタイプ」を選ぶ必要があります

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