
- 銘柄選びと猿のダーツ投げ
- 大切なことは、積立投資という「鍋の火」を絶やさないこと
- 株価の動きは酔っ払いの千鳥足?
- 市場における「効率性」
- 「効率性が高い」市場に、掘り出し物はあるのか?
- なぜ「インデックスファンド」が最適解なのか
- まとめ
銘柄選びと猿のダーツ投げ
世の中に数ある投資関連本の中でも名著として知られる『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキエール)の中に、非常に興味深いエピソードがあります。
目隠しをした猿に新聞の相場欄へ向かってダーツを投げさせる。
そうして選ばれた銘柄でポートフォリオを組んだとしても、金融街のエリートたちが厳選した銘柄と、運用成績はほとんど変わることはない。
新NISAをきっかけに投資に興味を持った、あるいはすでに積立投資を始めているという人も多いのではと思います。
投資にはリスクはつきもの、市場の波に一喜一憂せず、長く積み立てを続けていくことが大事。
そうわかってはいても、日々の評価額の動きは気になるものです。
普段は都内の居酒屋で板前をしていますが、AFPとしてお金の相談に乗ることもあります。
生命保険、税金に年金。
お金に関する悩みは尽きませんが、最近は(とくにトランプ関税やイラン情勢などの局面では)投資に関する相談も多くなってきました。
投資に成功するために、何が必要か。
この問いかけに対する答えは、その人にとって「成功」が何を意味するのかによるでしょう。
ですが、少なくとも「地道にコツコツと資産を育てる」ために必要なことは、相場を読むことではなさそうです。
冒頭の「猿のダーツ投げ」のエピソードが、そう教えてくれています。
もちろん、素晴らしい成績を収めるファンドマネージャーもいます。
しかし、たくさんの猿にダーツを投げさせれば、そのうちの何匹かは市場の平均を上回る成績を収めることもあるのです。
もちろん、平均を下回るひどい成績になることも。
大切なことは、積立投資という「鍋の火」を絶やさないこと
積立投資を始めて、これからも続けていくべきか不安で悩んでいる場合、やるべきことは明日の株価や1週間先の日経平均を予想することではありません。
むしろ大切なのは、自分を知ることではないでしょうか。
自分がどのくらいならリスクを許容することができて、毎月いくらなら無理なく積み立てを続けていけるのか。
もしもの時の備えはどのくらい必要か?
このように自分を知ることがなぜ重要なのかといえば、資産形成において、少額でもコツコツと継続的に積み立て・貯蓄していくことは最も確実で重要な投資戦略だからです。
豚の角煮でも、もつ煮込みでも、あるいはカレーでも何でも良いです。
煮込み料理の鍋を想像してみてください。
出来上がりを焦って火を強くすれば、肉は固くなり野菜は煮崩れしてしまいます。
一度焦げ付いてしまったら、リカバリーは難しい。
とはいえ、火を消してしまえば、料理は永遠に出来上がりません。
大切なことは、厨房に立ち続けること、そして鍋の火を絶やさないこと。
市場が成長へと歩みを始めたとき、市場の中にいてその営みに参加していなければ、成長の恩恵を受けることができないからです。
市場に留まり続けるためには、無理のない範囲で積み立て投資を続けること。
それは私たちが取りうる投資戦略の中で、最も現実的なものでもあります。
今回の記事では、「効率的市場仮説」と「ランダムウォーク理論」というふたつの金融理論を交えながら、生活を守るための資産形成における、インデックスファンドへの長期の積立投資の優れた点について解説していきます。
株価の動きは酔っ払いの千鳥足?
冒頭の「猿のダーツ投げ」のエピソード。
なかなかショッキングなものではありますが、もちろんこれは適当に銘柄を選んで投資することを勧めるものではありません。
このエピソードの主題は、「株価の値動きは予測不可能なものであり、チャート分析や銘柄選定はあてにならない」ということにあります。
こうした考え方を「ランダムウォーク理論」といいます。
ランダムウォーク、直訳すると「規則的ではない歩み」となり、「酔っ払いの千鳥足」に例えられることが多いようです。
泥酔した人が広場を歩くとします。
次に右へ行くのか、左へ行くのか、あるいはその場に座り込むのか、その動きを予想することは誰にもできず、当の本人にもわかりません。
ランダムウォーク理論では、株価もこの「広場の酔っぱらい」と同じ動きをしていると考えられています。
「そんなことない。株価の値動きには、業績などの理由があるじゃないか」と、疑問に思われるかもしれません。
その疑問に対する答えが、「株式市場というものは効率的なものだから」という仮説になります。
市場が効率的だから、値動きはランダムなものになる。
意味がわからないという方もいるかもしれません。
この「効率的市場仮説」について、できるだけわかりやすく紐解いてみたいと思います。
市場における「効率性」
まず、「効率」の定義について。
一般的に「効率的」と聞くと、「無駄がない(コスパ・タイパ)」「手際が良い」といった意味を連想されるかと思います。
しかし、投資理論における市場の「効率性」は、全く別の意味を持ちます。
簡潔に言えば、「世の中に出た新しい情報が、どれだけ早く、正確に『価格』に反映されるか」という、スピードと精度の度合いのことを意味します。
わかりやすく、「非効率的な市場」を対比させてみましょう。
「非効率的」な市場の代表例:豊洲などの日本の仲卸市場
金融理論(効率的市場仮説)の厳密な定義に照らし合わせると、豊洲市場に代表される日本の仲卸市場は「極めて非効率な市場」に分類されます。
誤解のないように付け加えると、物流のスピードや衛生管理、鮮度を保つコールドチェーンといった「オペレーションの手際の良さ」は間違いなく世界最高峰です。
しかし、「価格形成のメカニズム」や「情報の透明性」という金融的な観点から見ると、株式市場とは対極にある非効率な世界だと言えます。
その理由は、まさにプロフェッショナルが介在する余地(=非効率性)が意図的に残されているからです。大きく3つのポイントで解説します。
1. 圧倒的な「情報の非対称性」と「目利き」
株式市場では、Appleの株は誰が買っても全く同じ「1株」であり、決算情報も全員に同時公開されます。
しかし豊洲市場では、同じ海域で獲れた同じ重さのマグロであっても、脂の乗り、身の締まり、色合いなど、1本1本が完全に異なる「一点モノ」です。
表面的な情報(産地や重さ)だけでは真の価値は分からず、長年培われた仲卸の「目利き」というブラックボックス化された情報解析スキルが必須になります。
売り手(仲卸)と買い手(一般人や経験の浅い料理人)の間に、圧倒的な情報と知識の格差(情報の非対称性)が存在しているため、価格が常に誰にとってもフェアで適正とは限りません。
2. 「相対取引(あいたいどり)」と人間関係による価格形成
株式市場は、AIがミリ秒単位で「一番高く買う人」と「一番安く売る人」を機械的にマッチングさせます。
そこに感情はありません。
一方、豊洲のセリは需給で決まるものの、その後の仲卸から買い手への流通は相対取引が基本です。
「毎日通ってくれるあの店には、一番良い部位をキープしておこう」
「今日は全体的に質が悪いから、無理して買わなくていいと教えよう」
長年の信用、実績、義理人情が価格と品質にダイレクトに反映されます。
情報と価格が完全にフラットな株式市場では、このように特定の相手だけに有利な条件を出すことはあり得ません。
3. 参加障壁の高さ(クローズドな市場)
株式市場はスマホ一つで世界中の誰もが参加できますが、豊洲のセリに参加できるのは買参権を持つ限られたプロフェッショナルだけです。
限られた参加者の中で情報がやり取りされるため、外部の人間がその価格の妥当性を検証するのは非常に困難です。
「効率的」な市場の代表例:現代の株式市場
一方で、現代の株式市場や為替市場は「極めて効率性が高い」とされています。
1.情報の完全な共有:
企業の決算、テロの発生、経済指標などの情報が、インターネットを通じて世界中の投資家に「同時」に伝わります。
2.光の速さでの価格調整
情報が出た瞬間に、AIやプロの機関投資家がミリ秒(1000分の1秒)単位でアルゴリズム取引を行います。
3.結果(投資家にとっての意味)
良いニュースが出れば一瞬で限界まで買われ、悪いニュースが出れば一瞬で売られます。
情報が価格に反映されるスピードが異常に速いため、割安なまま放置されている「お宝銘柄」は一瞬で狩り尽くされ、存在できなくなります。
「効率性が高い」市場に、掘り出し物はあるのか?
こうしてみていくと、効率性が高い市場というのは、以下の2つの要素が成立している状態を指すことがわかります。
- 誰もが同じ情報を共有している。
- プラスとマイナスの要因が、すでに現在の価格に織り込まれている。
豊洲市場に代表される「非効率的な市場」では、足で稼ぎ、確かな目利きを持ち、時間をかけて強固な人間関係を築いた者が、素人にはわからない「掘り出し物」の情報や、圧倒的に有利な価格という利益を手にすることができます。
それでは、株式市場のような「効率的な市場」はどうでしょうか?
企業の業績予想、マクロ経済の動向、地政学的なリスク、さらには投資家の心理に至るまで、世界中のプロの機関投資家やAIが瞬時に情報を分析し、売買を行っています。
その結果、株価は上下の波を経て最終的に「適正な価格」に調整されます。
私たち個人のスマホに株価に影響を与えそうなニュースが届いた時点で、その情報はすでに「価格に織り込み済み」の状態。
つまり、一般投資家がニュースを見て「これから上がりそうだから買おう」と予測したところで、それでは他の投資家を出し抜くには遅すぎるのです。
短期的には、株価や市場全体の指数が平均よりも大きく上昇したり、下落するような動きをすることはあります。
しかし、その要因となるニュース(テロ、画期的な発明、自然災害など)は、いつ、どんな内容で飛び出してくるか、事前に予測することはできません。
ニュースの発生はランダムです。
相場のタイミングを見計らったり、個別の銘柄ごとの上げ下げを予想することは、多くの投資家たちが考えているよりもはるかに難しいのだということになります。
株式投資で一山当てようと考えている人にとっては、非常に夢のない話です。
ですが見方を変えれば、相場を読む、あるいは掘り出し物のお宝銘柄を探すというという困難なゲームに参加する必要はないのです。
市場の営みに参加しながらも、日々の仕事や生活に集中して良いという、非常に安心できる事実でもあります。
投資を通じて自分の資産、将来の生活を守りたいと考えている人は、「負けないための投資戦略」として押さえておくべき基本的な理論ではないでしょうか。
それではどうするべきか?となると、やはりインデックスファンドへの長期積立投資が最適解として導き出されます。
なぜ「インデックスファンド」が最適解なのか
「インデックス」とは、市場全体の動きを示す指数のことです。
ニュースでよく目にする「日経平均株価」や「TOPIX」、アメリカの「S&P500」、そして全世界の株価を示す「MSCIオール・カントリー(オルカンの指標)」などがこれにあたります。
「ファンド」とは、投資信託のことです。
投資家から集めたお金をまとめて運用します。
つまり、「インデックスファンド」とは、指数を忠実に再現できるようにパッケージされた投資信託を指します。
例えば日本株に投資する場合、個別の銘柄の株を買うのではなく、「日経平均株価」や「TOPIX」に連動する投資信託を買うことで、日本の株式市場全体に投資することになります。
これまでの「ランダムウォーク理論」と「効率的市場仮説」を踏まえると、多くの専門家からインデックスファンドへの長期積立投資が推奨される理由は、以下の3つに集約されます。
1.究極の「分散」投資
1つの企業の株だけを買うと、その企業が倒産したときに資産がゼロになります。
しかし、インデックスファンドなら数百〜数千の企業に分散されています。
株式市場の中の一部の銘柄が下落したとしても、全体のダメージは小さく済みます。
2.手数料が圧倒的に安い
アクティブファンドは、ファンドマネージャーやアナリストが企業調査を行い、市場平均(インデックス)を上回るリターンを目指す商品です。
目利きをプロにお願いするわけですから、当然のことながら手数料も高くつきます。
一方、インデックスファンドは株価指数に連動するよう機械的に買うだけなので、余計な調査費用がかからず、手数料が安く済みます。
3.市場の成長の恩恵を受けることができる
どの株式が勝ちなのかは誰にも予測できません。
どの株式であれ、勝つときもあれば負けるときもあります。
しかし、「世界経済全体としては長期的に成長(拡大)し続ける」というこれまでの歴史の裏付けがあります。
だからこそ、「誰が勝つか」を当てるゲームを降りて、「世界経済の成長という大きな波」に丸ごと投資するインデックスファンドは理にかなった選択だと言えます。
まとめ
今回の記事で紹介した『ウォール街のランダム・ウォーカー』は、初版が出てからすでに50年以上になります。
著者自身による50周年記念版前書きに、「市場全体に投資すべき」という考え方は、当時かなりの批判を浴びたのだというエピソードが記されています。
いまでこそインデックス投資は広く受け入れられているものの、この本の初版当時は「インデックスファンド自体が存在しなかった」のだから(!)無理もありません。
現在では保有されている株式投資信託の半分以上が、インデックスファンドによって運用されています。
米国のS&P・ダウ・ジョーンズ・インデックス社が定期的に発行している「SPIVAスコアカード」などの実証データにおいても、15年といった長期スパンで見ると、8〜9割のアクティブファンドが市場の平均指数(インデックス)に勝てていないという結果が示されています。
市場には、数年に一度の「大暴騰」の日があります。
しかし、その日はいつやってくるかわかりません。
もし評価額が下がったことに驚いて、慌てて売却して市場を去ってしまえば、その後にやってくる素晴らしい上昇の機会(リターン)をすべて逃してしまうことになります。
インデックスファンドを活用した長期の分散投資は、弱火で時間をかけた煮込み料理のようなものです。
大きく勝ちたい、手っ取り早く一山当てたいと思う人には、向きません。
しかし、インフレに負けない資産を作るためには、最も現実的で有効な投資手段です。
美味しい煮込み料理を味わうためには、火加減(毎月の掛け金)も大切です。
小さすぎても、無理に火を大きくしてもいけません。
家計管理によってコントロールされた、無理のない火加減を目指しましょう。
そして、いつ不測の事態が起こるとも限りません。
せっかく積み立てた資産を、暴落した価格で売らなくても良いように、いざという時の「備えのための現金(生活防衛資金)」をきちんと用意しておきましょう。
目安は生活費の3ヵ月分、守るべき家族がいれば当然それよりも多く(半年分など)なります。
積み立て投資という煮込み料理には、時間がかかります。
しかし、時間をかけるほどに、市場の成長や複利といった「旨味」は大きく育つのです。
正しいレシピ(インデックス投資)と火加減(無理のない適正な毎月の掛け金)を守っていれば、20年後、30年後のあなたの食卓には、きっと豊かな実りが並んでいることでしょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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