- 飲食店の倒産件数過去最多:廃業から立ち直るためのロードマップは?
- 1:破産か再生か:飲食人のための法的整理の戦略的選択
- 2:「自己破産」「個人再生」の選択基準
- 3:親族や友人が連帯保証人になっている場合
- 4:「法的整理」の前にやるべきアクション
- まとめ

飲食店の倒産件数過去最多:廃業から立ち直るためのロードマップは?
2025年は飲食店にとっては試練の年となりました。
円安・インフレによる食材費や光熱費の高騰と賃上げによる利益の圧迫、アフターコロナの消費マインドの変化。
とりわけ、値上げに踏み切れない小さな飲食店の置かれた状況は、非常に厳しい。
2025年の飲食店の倒産件数は3年連続で増加し過去最多、その中でも小規模の倒産が全体の8割を占めています。
(出典:帝国データバンク「飲食店」倒産動向調査)
飲食業における「独立」は、多くの人が一度は考える希望である一方で、常にリスクと隣り合わせです。
高い廃業率は、多くの挑戦者が結果として借金という「焦げ付き」を抱えていることを示しています。
しかし、私たちは厨房において焦げ付いた鍋をそのまま捨てる、ということはしません。
自分の失敗と向き合いながら、再び使えるようになるまで根気よく磨き上げます。
金融的な失敗も適切な処理を行えば、人生の再起は十分に可能です。
今回の記事では、店が潰れた後の「借金」という、飲食人にとっての最大のリスクに焦点を当て、そこから立ち直るためのロードマップを法制度と金融実務の両面から示していきたいと思います。
1:破産か再生か:飲食人のための法的整理の戦略的選択
飲食業界で働く人の多くは、借金の返済ができなくなった時点で自己破産しか道がないと思い込んでいるふしがあります。
ですが法的整理には自己破産以外にも、「持ち家を守りながら借金を大幅に減額」できる個人再生という選択肢があります。
倒産という困難から飲食人として再起を図るための、「自己破産」と「個人再生」の違いを、持ち家の有無や再就職後の収入形態などのライフスタイルに合わせて、比較分析していきます。
自己破産
自己破産は最もよく知られている債務整理の手続きです。
借金を返せなくなった人が裁判所に申し立て、支払い不能であることを認めてもらい、残りの借金の支払い義務を免除(「免責」と言います)してもらう法的な手続きです。
【自己破産のメリット】
- 借金がゼロになる:税金や養育費など一部を除き、借金の支払いのほとんどが免除されます。
- 生活再建のスタート:生活必需品や年金受給権(iDeCoの積立資産を含む)、専門職に必要な最低限の道具(包丁など)といった生きていくうえで欠かせないものは、差押禁止財産として手放すことなく生活のリスタートをすることができます。
- 強制執行の停止:手続き開始後は、給料の差し押さえなどができなくなります。
【自己破産のデメリット】
- 財産の処分:持ち家、自家用車(査定額20万円以上)、高額な厨房機器など、一定以上の価値がある財産は処分され、債権者に分配されます。
- ブラックリスト:自己破産後の約5年~10年程度、新たな借り入れやクレジットカードの作成が難しくなります。
- 職業制限:自己破産後は警備員や生命保険募集人などのような職業に就くことはできなくなり、一部の士業(弁護士・司法書士・行政書士など)ではその資格が停止されます。調理師・飲食店勤務は続けることができます。
- 保証人への影響:連帯保証人がいる場合、保証人に一括返済の請求が行くことになります。
- 官報への掲載:氏名や住所などが官報に掲載されます。
自己破産後のあなたに残る大切な「財産」
自己破産は文字通り人生のリセットであると言えます。
持ち家などの資産は処分されますが、包丁などの仕事に欠かせない道具は守ることができますし、調理師の資格は制限を受けることなく仕事を続けられます。
そして何より、長年調理場で培ってきた技術や段取りやノウハウは、あなただけが持つ大切な財産です。
廃業・自己破産は人生の結末ではなく、あなたが経験という財産を生かしてリスタートするための「経営判断」という見方もあるのではないでしょうか。
個人再生
個人再生は、裁判所を通して借金を大幅に減額してもらい(1/5~1/10程度)、原則3~5年で完済する法的手続きです。
【個人再生のメリット】
- 持ち家を守れる:「個人再生」の最大のメリットは、住宅ローンはそのまま払い続けることで持ち家を守ることができる、ということ。住宅ローン以外の借金を減額したうえで分割で返済します。
例えば、「住宅ローン残高2000万円、その他の借金500万円」の場合、住宅ローンの返済は変わらずに継続し、「その他の借金」である500万円を100万円に減額したうえで、分割返済します。
- 職業の制限がない:個人再生では、自己破産のように職業や資格の制限がありません。
- 借金の理由は問わない:自己破産は借金の理由によって認められない場合もありますが、個人再生では借金の理由(ギャンブルなど)は問われません。
【個人再生のデメリット】
- 借金はゼロにはならない:減額後も3~5年かけて返済する必要があり、住宅ローンはそれまで同様に支払い続けます。
- 手続きが複雑:自己破産と比べると必要な書類も多くなり、時間もかかります。
- 費用が高額となる可能性:専門知識が必要とされ、弁護士・司法書士への費用も高くなる傾向があります。費用を抑えるためには「法テラス」の利用などを検討する必要があります。
- 保証人への影響・官報への記載:この辺りは自己破産と同様です。
廃業はしたものの、「家族と住む家だけは守りたい」という個人オーナーにとっては、個人再生が債務整理の選択肢となります。
メリットの分、認められるまでの道のりは難しく弁護士等への依頼が必須となります。
「返済計画」の策定も求められ、安定した収入を得ていると認められるために「廃業→再就職」のスピード感も重要になります。
審査の壁「履行可能性」をどう証明するか
個人再生が認められるための最大のハードルは、「本当に3年間、払い続けられるのか?」という証明(履行可能性)です。
飲食店オーナーから会社員(またはアルバイト)に戻る際、もっとも重要なのは「手取り月収」と「固定費」のシミュレーションです。
例えば、
- 住宅ローン:月10万円
- 圧縮された借金:月3万円(総額100万円を3年払い)
- 合計支払額:月13万円
これに対し、再就職先の手取りが25万円だとしたら、残りの12万円で家族全員が暮らしていけるのか?
裁判所はここを厳しく見ます。
弁護士に相談する前に、求人票を見ながら「今の自分のスキルなら手取りいくらで働けるか(市場価値)」を冷静に計算しておくこと。
これが手続きをスムーズに進めるための、FPとしてのアドバイスです。
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2:「自己破産」「個人再生」の選択基準
← 表は左右にスクロールできます →
| 選択基準 | 自己破産 (完全リセット) |
個人再生 (家を守る再建) |
|---|---|---|
| 借金の行方 | 原則、全額免除(ゼロ)※税金・養育費などは除く | 大幅に減額※最大1/5〜1/10に圧縮し、原則3年で分割返済 |
| 住宅 (持ち家) |
処分される※管財人により売却・配当される | 守れる可能性あり※住宅ローン特則を利用し居住継続 |
| 借金の上限 | なし※金額問わず可能 | 5,000万円以下※住宅ローンを除く無担保債務 |
| 職業・ 資格制限 |
あり(期間中のみ)警備員等はNG。 ⚠️調理師・飲食店員は制限なし |
なしどんな職業でも継続可能 |
| 弁護士費用 (目安) |
約50万〜80万円※資産あり(管財事件)の場合 | 約60万〜80万円※手続き複雑なためやや高額傾向 |
| 手続きの 複雑さ |
複雑※管財人面談などあり | 非常に複雑※再生計画案の認可が必要 |
| 飲食人への 推奨条件 |
|
|
- 費用の捻出について: 「弁護士費用なんて払えない」と思う方も多いと思います。受任通知(弁護士介入)が出た時点で借金の返済が一時的にストップします。その返済に充てていたお金を、弁護士費用の積立に回すのが一般的です。
- 「安定収入」の定義: 個人再生における「安定収入」とは、高年収である必要はありません。アルバイトやパートであっても、毎月決まった給料が入ってくること(履行可能性)が証明できれば認められるケースが多いです。
- 職業制限: 表でも強調しましたが、「自己破産=調理師免許剥奪」ではありません。
3:親族や友人が連帯保証人になっている場合
飲食店の開業時、ご両親や知人に保証人になってもらっているケースも多いでしょう。
非常に心苦しい現実をお伝えしなければなりませんが、あなたが「自己破産」や「個人再生」を申し立てると、債権者は原則として連帯保証人に残りの借金の一括請求を行います。
「迷惑をかけたくないから」と、消費者金融で借り増しをして返済を続ける方がいますが、それは傷口を広げるだけで、結果的に保証人への請求額も増やしてしまいます。
最善の策は、もっともありきたりで誰もが避けて通りたいと考える道、つまり「早期の開示と謝罪」です。
保証人の方にも事情を話し、場合によっては保証人の方も含めた債務整理(保証人も一緒に時効援用や整理を行うなど)を検討する必要があります。
ここは感情的に最も辛い部分ですが、隠して事態を悪化させるこそ最悪手なのです。
4:「法的整理」の前にやるべきアクション
弁護士への相談の前に、まずは自分で「現状の棚卸し」を行うことをお勧めします。
廃業から再起への第一歩は、借金の「法的整理」です。
この「現状の棚卸し」は、そのための仕込みのようなもの。
現状を把握することで、解決策・ロードマップの策定もスムーズになります。
【債務整理のための「現状の棚卸し」】
- 債務一覧表の作成 :銀行、政策金融公庫だけでなく、リース残債、買掛金、友人からの借入まで全て書き出します。
- 家計のレントゲン撮影(収支の把握): 店のお金と家のお金が混ざっていませんか? 生活費だけで月いくら必要なのか、通帳を見て正確に把握してください。
- 「再就職後の手取り」の試算 :求人票を見て、自分のスキルなら月いくら稼げるかシミュレーションします。その手取りから、住宅ローンと圧縮後の借金(個人再生の場合)が払えるか計算してみてください。
- 情報収集:法テラスや弁護士の無料相談を利用する(「個人再生の実績があるか」を確認する)。
まとめ
調理の現場では、鍋を焦がすことを「あてる」と言います。
調理の仕事をしている人間なら、程度の差こそあれ、誰もが鍋をあてた経験があるのではないでしょうか。
幸いなことに鍋の焦げの落とし方には、お酢を煮る、天日干し、炭化させるなど、先達の知恵があります。
自分の失敗と向き合いながら鍋を無心で磨くことも、知恵を借りることも、どちらも大切です。

「独立」「自分の店」という希望は、常にリスクと隣り合わせです。
お店の経営が苦しくなった時、何とかしようと藁をもつかむ気持ちで高金利の借入などに手を出してしまっては、大切な鍋に穴をあけることにもなりかねません。
その後の再起はとても難しくなります。
廃業を人生の挫折ではなく、人生を立て直すための戦略的な撤退とするためには、ファイナンス、そして制度に関する知識を持つことがとても重要になります。
傷ついた信用情報も、時間をかけて回復させることも可能です。
そして何より、これまで積み上げてきた経験や技術は、誰にも没収されることのない財産です。
法律家が「手続き」を行い、FPは「その後の生活」を守るために知恵を絞ります。
焦げ付いた鍋も、知恵をもって磨けばまた出番がやってくるはずです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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