【この記事を読んでわかること】
- 実際の入院でかかる「隠れコスト」のリアル
- 高額療養費改正でいくら負担額がかわるのか(年収別早見表)
- これからの医療保険の選び方

例えば包丁のように専門性が高いものや高価なものがあるというわけでもなく、「あって当たり前のもの」という立ち位置のザルですが、食材を洗ったり水やお湯を切ったりなど、その役割は重要で私たちの仕事に「欠かせないもの」でもあります。
同じような機能と役割を持つものに「網」がありますが、不思議なもので、ザルと網ではそのイメージに大きな違いがあります。
網が何かを捕まえたり遮ったりするイメージなのに対して、ザルはもっと穴が大きくて物事が簡単にすり抜けてしまうイメージでしょうか。
「ザル法」「ザル会計」と、あまり良い意味では使われません。
それに対して、網は「セーフティーネット」「捜査網」のように、何かを取りこぼさない・逃がさないためのシステムの例えとして使われることが多いようです。
ですが、何か「必要なものだけ」を残したいときには、余分なものを流したり逃がしてくれるという、ザルの機能はとても重要になります。
これは料理だけに限らず、保険選びも「必要なものだけを残す」ことが重要です。本記事では、2026年の高額療養費改正で負担がどう増えるのかを解説し、それに備えるための賢い「ザルの目(保険の選び方)」について提案します。
かつては保険会社の営業職員と対面でのやり取りが多かった民間保険の契約も、保険ショップやネットが普及したことにより、情報収集や商品の比較が容易になりました。
しかしそこには、自分で選ぶからこその難しさもあります。
保険の目的は何かと言えば、リスクへの備えに他なりません。
ですから保険を選ぶ際には
- どのようなリスクへの備えなのか
- 本当に必要な備えなのか
という目的を明確にして、検証・比較していく必要があります。
なので保険を選ぶ際には、保険商品のパンフレットを並べる前に、まず自分の基準について考えましょう。
その基準に合った穴の大きさの「ザル」を用意できれば、本当に必要なものだけをきちんと残すことができます。
例えば民間の医療保険への加入について検討する場合。
私たちが暮らす日本には、いざという時に普通の生活者を守るための公的保障という「セーフティーネット(網)」がきちんと準備されています。
また会社員の場合には、勤め先の会社独自の福利厚生が利用できる場合もあります。
そこで今回のブログでは、
- まず、公的保障の内容を知る。
- 公的保障でカバーできない部分を民間の医療保険で補う。
というオーソドックスな観点から改めて必要な保障について考え、さらに
- 2026年8月からの「高額療養費の見直し案」の内容と評価
- 見直しを受けた「医療保険の役割」の再定義
について書いていきたいと思います。
1:1か月の入院費用 自己負担シミュレーション
長期間の入院や治療が必要になって医療費が高額になった時の負担を軽減するため、一定の限度額を超えた金額が支給される制度が「高額療養費制度」です。
高額療養費の計算式は複雑なので省きますが、結論から言うと、一般的な会社員(年収370〜770万円)が医療費100万円の手術・入院をした場合、窓口での支払いは約8万7千円で済みます。
「なんだ、そんなもんで済むのか」と思うのは早計です。 ここには健康保険が使えない費用が含まれていないからです。
①健康保険の対象とならない費用
入院にかかる費用は治療費だけではありません。
食事代、差額ベッド代、日用品、付き添いやお見舞いなどの交通費など、こうした費用は健康保険の対象外ですので自己負担となります。
一か月入院する場合にかかる費用についてみていきましょう(あくまでも仮定に基づく概算です)。
- 食事代:一食につき490円。490円×3食×30日間=44,100円となります。
- パジャマ・タオル等のレンタル:病院によって異なりますが、だいたい4~500円。500円×30日=15,000円くらいで見ておきましょう。
- テレビカード・冷蔵庫代:テレビカードは1枚千円の病院が多いですが、その1枚で見られる時間は病院によって幅があります。ここでは「3日で1枚使う」とします。入院時の冷蔵庫代は1日200円と仮定。(1000円×10枚)+(200円×30日)=16,000円。今どきはネットで動画を見るのでテレビはほとんど見ないという人もいますから、ここは人それぞれになります。
- 売店での飲み物など:一日500円程度として、500円×30日=15,000円。
- お見舞いや付き添いの交通費:数千円~1万円。正直どのくらいになるか読めません。とりあえず1万円くらい用意するとします。
これらを合計すると約10万円になります。結構かかりますね・・・。
そして先ほどの一般的な会社員の年収の自己負担額が8万7,430円なので、これを合計します。
87,430円(医療費)+100,100円(その他の費用)=187,530円
20万円弱といったところでしょうか。
高額療養費制度がなければさらに20万円以上の医療費がかかるので、いざという時の社会保障の大切さが身に沁みます。
これを1日当たりに計算すると187,530÷30日=6,251円となります。
②差額ベッド代
入院時にプライバシーなどを考慮して個室を希望した場合、上記の他に「差額ベッド代」がかかります。
この費用も健康保険の対象外で全額自己負担です。
【差額ベッド代(1日当たりの平均額)】*1
- 1人部屋:8,625円
- 2人部屋:3,149円
- 3人部屋:2,778円
- 4人部屋:2,780円
自分は過去に二度入院経験があります。
一度目は築地市場でターレー(運搬用の作業車)に轢かれて骨折したとき、そして二度目は「トイレで思いっきり踏ん張る」という本当にしょーもない理由で血圧が上昇し腎梗塞という病気になったときです。
ターレーに轢かれたときは事故として相手方の保険での対応でしたが、腎梗塞の際は高額療養費のお世話になり、そしてどちらも4人部屋でした。
大部屋での入院は正直経験がないので何とも言えませんが、個人的には4人部屋くらいのプライバシーは必要だと思っています。
大部屋でのメリットに「患者同士の交流」を挙げる人もいますが、別に友達を作るために入院するんじゃないですし・・・。
ただ、この差額ベッド代の額はあくまでも平均ですので、地方によって、あるいは病院によって実際の差額ベッド代は異なります。
あくまで参考程度に。
そして先ほど計算した1日当たりの自己負担額に、4人部屋を利用した際の差額ベッド代の平均額を足すと
6,251円+2,780円=9,031円となります。
ざっくりした計算ではありますが、こうして一日当たりの自己負担額の目安を知っておくとそこから自分なりの基準を考えることができるし、ザルを使って必要なものだけを残すように保険を選ぶこともできるのではないかと思います。
2:【2026・2027年】高額療養費制度の改正内容と年収別一覧表
2025年12月、政府が決定した高額療養費の見直し案が明らかになりました。
www.nikkei.com
www.asahi.com
見直しは2026年8月と2027年の8月の2段階で行われる予定で、要点は次の2つ。
①月の上限額の引き上げ
横にスクロールできます
| 高額療養費制度の見直し案 | |||
|---|---|---|---|
| 月の自己負担上限(円) | |||
| 現行 | 26年8月~ | 27年8月~ | |
| 年収 | |||
| 約1650万円以上 | 252,600 | 270,300 | 342,000 |
| 1410万~1650万円 | 303,000 | ||
| 1160万~1410万円 | 270,300 | ||
| 1040万~1160万円 | 167,400 | 179,100 | 209,400 |
| 950万~1040万円 | 194,400 | ||
| 770万~950万円 | 179,100 | ||
| 650万~770万円 | 80,100 | 85,800 | 110,400 |
| 510万~650万円 | 98,100 | ||
| 370万~510万円 | 85,800 | ||
| 260万~370万円 | 57,600 | 61,500 | 69,600 |
| 200万~260万円 | 65,400 | ||
| 200万円未満 | 61,500 | ||
(注)年収370万円以上の区分は、かかった医療費に応じて計算した額と表中の額の合計が上限になる場合があります。
出典:厚生労働省 社会保障審議会(医療保険部会)資料を基に筆者作成
脚注にもある通り、年収370万円以上の区分では、「かかった医療費に応じて計算した額」と「表の中の額」の合計額が、自己負担の上限となります。少しわかりづらいですね。
例えば現行の制度で「年収370~770万円」の場合の計算式は
80,100円 + (総医療費-267,000円)×1%
となり、この式に当てはめると医療費が100万円の場合の自己負担額は約8万7千円となります。
そしてこの表を見ればわかる通り、見直し案では一般的な会社員の年収の場合は自己負担額が数千円程度引き上げられる見込みです。
また2027年8月以降の見直しでは、所得区分が細分化され、収入に応じてきめ細かく上限が引き上げられることになります。
②年間上限額の新設
もともと高額療養費の見直しは石破政権時の2024年末に公表したものですが、その時は患者団体からの強い反発を受け全面凍結となったものです。
今回の見直し案ではそういった経緯を踏まえて、慢性疾患や難病に苦しむ患者の負担を軽減するため年間上限額が新設されることになりました。
【新設される年間上限額】
- 約1,160万円以上・・・144万円
- 770万〜1,160万円・・・93万円
- 370万〜770万円・・・53万円
- 200万〜370万円・・・46万円
③見直しに至った経緯と評価
近年の高額な新薬や治療法の登場によって、高額療養費が適用されるケースが増加しています。
このままでいくと「現役世代」が主に負担している保険料の増加につながり、年齢ではなく支払能力に応じた負担への転換は不可避となったと言えます。
月額の上限額が引き上げられた一方で、年間の負担上限額が新たに設けられたことにより、長期療養によって家計が破綻するリスクはかなりの確率で防ぐことができるようになりました。
こうした点は評価されるべき進化ではないでしょうか。
3:改正後の医療保険の選び方:入院日額より一時金・就業不能保険
今回の見直し案を見ていくと、国による公的な保障の役割が「すべての医療費のケア」から「最悪の事態(家計の破綻)を防ぐセーフティーネット」へと明確にシフトしつつあることがわかります。
これまで長期の入院に備えて「なんとなく」1日1万円の入院給付金を設定していた医療保険も、その役割を再定義する必要があります。
さらに言えば、医療費は上限ができても、これまでと同様に入院中の収入減には自分で対応する必要があるという点も重要です。
①「入院日額」より「一時金」の重要性が増す
月額の自己負担上限が上がるということは、短期の入院でも、窓口で支払う金額(自己負担)が増えることを意味します。
- 対策: 入院日数に関わらずまとまったお金が出る入院一時金タイプの重要性が高まります。短期入院でサッと10〜20万円受け取れれば、引き上げられた自己負担分をカバーし、さらに差額ベッド代や食事代などの「制度外費用」も補填できます。
②「先進医療特約」は必須のまま
今回の見直しはあくまで「保険診療」の範囲内です。
がん治療などで使われる先進医療(全額自己負担)や、自由診療は高額療養費の対象外のままです。
- 対策: 保険料が安い先進医療特約や、がん診断給付金などは、制度改正に関係なく引き続き確保しておくべき「命綱」です。
③「医療保険」より「就業不能保険」へのシフト
年間上限(約53万円など)ができたことで、医療費そのものによる家計破綻リスクは減りました。しかし、病気で怖いのは治療費以上に働けなくなって収入が減ることです。
- 対策: 医療費の上限が見えた分、浮いた予算があれば医療保険の上乗せではなく、働けなくなった時の生活費をカバーする就業不能保険(所得補償)に回す方が、家計のリスク管理としては合理的です。
社会の形が変わると共に、社会を支えるセーフティーネットである公助もその形と役割を変えつつあります。
私たちもまた、「何を捨てて何を残すのか」という自助のザルの目が適切なものかどうか、きちんと点検していく必要があります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
【合わせて読みたい】
・変化の激しい時代、「普通の暮らし」をどう守るか。
itamaefp.com
・「インフレに弱い」と言われる年金保険、もしもの時の「保険」としての機能について。
itamaefp.com
*1:厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」令和6年8月1日現在 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001117412.pdf